女性の排尿障害 ―尿失禁・頻尿のプライマリ・ケア―

大阪市立大学医学部 産科婦人科学
石河 修

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排尿障害とは症状症候群であり、正式には下部尿路症状(Lower Urinary Tract Symptoms;LUTS)といわれ、蓄尿症状、排尿症状、排尿後症状の3つに大別される(図1)。この中で、一般産婦人科医がしばしば遭遇するのが蓄尿症状である。女性にみられる蓄尿症状を呈する疾患は、尿失禁と過活動膀胱である。
過活動膀胱(overactive bladder;OAB)とは、2002年に国際禁制学会(International Continence Society;ICS)による「下部尿路機能の用語の標準化」により提唱されたもので、「尿意切迫感を必須とした症状症候群であり、通常は頻尿と夜間頻尿を伴うものである。切迫性尿失禁は必須ではない」と定義されている。
尿意切迫感とは、急に起こる、抑えられないような強い尿意で、我慢することが困難な愁訴であり、ただ単に強い尿意があるが我慢できるものとは異なる。尿失禁は数種類に分類されるが、その大部分は腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁およびその混合型である。

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腹圧性尿失禁とは、せき・くしゃみ・体動などにより腹圧が急激に上昇し、その結果、膀胱内圧が尿道抵抗を上回り不随意に生じる尿の漏れをいう。更年期の女性の最も多くに見られ、骨盤底筋群の脆弱化、後部尿道膀胱角の開大、尿道括約筋の損傷などがその原因と考えられている。切迫性尿失禁は、最近では過活動膀胱の一形態と考えられ、尿失禁を伴わないOABがdry OABと呼ばれるのに対して、切迫性尿失禁はwet OABと呼ばれている(図2)。
女性の尿失禁および過活動膀胱の診断には、問診票が有用である。尿失禁の診断には、15の質問からなるスコア化された問診票が用いられている(図3)。

図 3 stress-score urge-score
1. あなたは尿が漏れることが、どのくらいありますか?
1 まれに 1
2 時たま 1
3 毎日、一日何回も 1
4 持続的 1
2. どのような時に尿が漏れましたか?
1 せきやくしゃみをした時 1
2 座っていたり、横になっている時 1
3. 尿を漏らした時の量はどうでしたか?
1 数滴〜少量と少なかった 1
2 比較的多かった 1
4. 毎日どのくらいの間隔でトイレに行きますか?
1 3〜6時間ごとに 3
2 1〜2時間ごとに 2
5. 夜寝てからもトイレに行きますか?
1 一度も行かないか、一度だけ行く 3
2 2回以上またはひんぱんに何度も行く 3
6. 夜寝ている時に尿を漏らしたことがありますか?
1 ない 1
2 よくある 1
7. 尿意を感じた時、がまんできますか?
1 がまんできる 3
2 すぐに(10〜15分で)トイレに行かないと漏れてしまう 2
3 がまんできずに、漏れてしまう 3
8. トイレに行く途中で尿を漏らしてしまったことがありますか?
1 まったくないか、またはまれにしかない 3
2 ほとんどいつも漏れる 3
9. 突然強い尿意を感じて、そのため我慢できずに尿を漏らしたことがありますか?
1 ない 3
2 時たま、またはよくある 3
10. 出している尿を途中で止めたり出したりできますか?
1 できる 1
2 できない 2
11. 排尿した後、残尿感(尿がまだ残っているような感じ)はまったくないですか?
1 はい 1
2 いいえ 1
12. トイレに行きたいぐらいの尿意が頻回にありますか?
1 まったくない 3
2 ある 3
3 非常にある 2
13. 出産経験はありますか?
1 はい
2 いいえ 1
14. あなたにとって尿が漏れることはどうですか?
1 時たま悩ませるだけか、あまり気にならない 1
2 非常に困っている 1
15. あなたの体重はどれくらいですか?
1 65kgより軽い
2 65kg以上 1

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腹圧性尿失禁スコア(stress score)と切迫性尿失禁スコア(urge score)で構成されており、この問診票より得られたスコアをプロットし、領域a、b、cは腹圧性尿失禁、領域g、i、jは切迫性尿失禁、領域e、f、hは混合性尿失禁と診断される。
さらに、腹圧性尿失禁ではstress scoreが10〜17で軽症、18〜23で中等症、24〜26で重症、切迫性尿失禁ではurge scoreが12〜18で軽症、19〜22で中等症と評価できる。過活動膀胱の診断には、過活動膀胱症状質問票(OAB symptom score; OABSS)が用いられている(図4)。

図 4

症状 点数
1 朝起きた時から寝る時までに、何回くらい尿をしましたか 0 7回以下
1 8〜14回
2 15回以上
2 夜寝てから朝起きるまでに、何回くらい尿をするために起きましたか 0 0回
1 1回
2 2回
3 3回以上
3 急に尿がしたくなり、我慢が難しいことがありましたか 0 なし
1 週に1回より少ない
2 週に1回以上
3 1日1回くらい
4 1日2〜4回
5 1日5回以上
4 急に尿がしたくなり、我慢できずに尿をもらすことかありましたか 0 なし
1 週に1回より少ない
2 週に1回以上
3 1日1回くらい
4 1日2〜4回
5 1日5回以上
合計点数

注1 質問文と回答選択肢が同等であれば、形式はこの通りでなくともよい。
注2 この表では対象となる期間を「この1週間」としたが、使用状況により、例えば「この3日間」や「この1ヵ月」に変更することは可能であろう。いずれにしても、期間を特定する必要がある。

この中で、「質問3」が2点以上かつ合計点数が3点以上あれば、過活動膀胱と診断され、合計点数が5点以下を軽症、6〜11点を中等症、12点以上を重症と評価することができる。
腹圧性尿失禁の治療は、その主な原因が骨盤底筋群の機能低下によるものであるため、骨盤底筋群の機能回復が中心となる。骨盤底筋群の機能回復には、保存的には骨盤底筋体操などの理学療法から外科的にはTVTなどの手術療法があり、それぞれ50〜90%の改善率を認めている。初期治療として、骨盤底筋体操+薬物療法が推奨される。
薬物療法の第1選択は、クレンブテロール(スピロペント○R)とエストリールの併用である。図5に一般産婦人科医による尿失禁の管理法を示す。過活動膀胱の治療については、@抗コリン薬、Aフラボキサート、B抗うつ薬が挙げられているが、この中で推奨グレードAであるのは抗コリン薬のみである。抗コリン薬は、オキシブチニン(ポラキス○R)、プロピベリン(バップフォー○R)、トルテロジン(デトルシトール○R)、ソリフェナシン(ベシケア○R)、イミダフェナシン(ステーブラ○R、ウリトス○R)など多くの薬剤が開発されている。  これらの優劣については、多数のRCTが報告されているが一定の見解にはいたっていない。個々の患者によりその改善率は異なるため、ひとつの抗コリン薬が無効であっても、他の抗コリン薬を試してみる意義はある。

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[勤務医ニュースNo. 94:2010年4月15日号に掲載]