【勤務医LETTER No.157特別寄稿】コロナ禍で考えるDPCデータの意義

産業医科大学 医学部 公衆衛生学教室
教授 松田 晋哉

COVID-19の流行は我が国の医療提供体制に大きな影響を及ぼした。特に感染拡大の規模が大きかった大阪府では、医療崩壊に近い状況も生じた。諸外国に比較して人口当たり病床数の多いわ
が国で、どうしてこのような状況が生じたかと言えば、表1に示したように、第一義的には病院の人員配置が薄いからである。

病院の人員配置の在り方の再検討が必要である。端的には医師数、看護師数の増員、そして高齢患者が増えていることを踏まえれば、病棟で働くリハビリテーション職や介護職の配置数も増や
すべきであり、それを可能にする診療報酬体系の見直しが必要である。そうした改善を行わなければ、医師の働き方改革に対応することは難しく、結果として地域の医療機能を縮小せざるを得ない状況にもつながりうる。働き方改革は、医療職のワークライフバランスの改善につながる重要な政策であるだけに、制度の合理性が問われている。

ところで、今回のCOVID-19の流行にあたって医療提供体制が厳しい状況になった要因として、諸外国に比較して小規模な施設が多く、また施設間の機能分化と連携が進んでいないことも指
摘できる2)。このような指摘については、データで確認する作業が不可欠となる。この目的のために使えるデータとしてDPC データがある。以下、これについて例示してみたい。

図1は厚生労働省が公開しているDPC データをもとに、2019年度と2020年度のDPC 対象入院患者数を泉州医療圏について比較した結果を示したものである。葛城病院と阪南市民病院以外は大きく患者数が減少している。

図2は同様の比較を救急車による入院患者数について行ったものである。全数で患者数が減少していた岸和田徳洲会病院は、救急患者数の受け入れは増加している。このことは同病院が不要不急の入院を抑制し、COVID-19の患者を含めて救急対応を行ったことを示唆するものである。また、葛城病院と阪南市民病院は救急入院患者数も増加している。このようなパフォーマンスの違いがどうして生じたのかについて、各地域で分析が必要である。なぜならば、その結果は現在検討が進んでいる第8次医療計画の策定にあたって重要な資料となるからである。例えば、COVID-19流行下においても救急医療の数を維持、あるいは増加させた病院はそれができる要因があったからであり、健康危機発生時の中核施設として位置付けられるのかもしれない。このように公開されているDPC データを用いることでCOVID-19の流行が各病院にどのような影響を及ぼしたのかを評価することが可能となる。

ところで、すでに大阪府のデータ等で明らかになっているように、COVID-19の入院治療に際しては、その受け皿となる急性期病院と同様、治療後の患者を受け入れる急性期以後の病院の役割
が重要であった。治療後の患者を受け入れる施設が不足すれば、急性期病院が患者を受け入れられなくなるからである。この状況については医科レセプトを分析することで確認することができる。詳しい内容については拙著2)を参考にしていただければと思う。

上記のような状況を回避するためには病院機能の明確化と異なる施設間での連携体制の確立が必要となる。我が国の医療者の間には、病院機能の格付けに関して急性期>回復期>慢性期という心理的ヒエラルキーがある。しかし、拙著でも示したように、高齢化の進展は医療と介護とのニーズの複合化をもたらし、急性期以後の医療機能の充実、さらには提供体制の複合化、具体的にはサービス提供側の広い意味でのケアミックス化を求めている1)。こうした複合的サービスの重要性は、高齢者施設におけるクラスター発生の際の医療対応力の違いとして、今回のパンデミック化では顕在化した。地域医療構想調整会議では高度急性期・急性期の病床数の議論が検討の中心になりがちだが、高齢化の進むわが国では、急性期以後の医療介護提供体制を、在宅も含めて議論することが重要であると筆者は考えている。そのためにもDPC や病床機能報告といった公開データが、行政のみならず地域医療の関係者によっても分析され、医療の実践に活用されるべきである。その方法論についても拙著で解説しているので3)、お読みいただければと思う。

 

図1 2019年度と2020年度のMDC別全入院患者数の変化の状況(泉州医療圏)
※画像クリックで拡大します。

 

図2 2019年度と2020年度のMDC別救急車による入院患者数の変化の状況(泉州医療圏)
※画像クリックで拡大します。

 

引用文献
1) 松田晋哉:ビッグデータと事例で考える日本の医療・介護の未来(2021)、東京:勁草書房.
2) 松田晋哉:ネットワーク化が医療危機を救う-検証・新型コロナウイルス感染症対応の国際比較(2022)、東京:勁草書房、(2022年12月刊行予定)
3) 松田晋哉:地域医療構想のデータをどう活用するか(2020)、医学書院.

松田 晋哉(まつだ しんや) プロフィール

略歴
1985年産業医科大学医学部卒業
1992年フランス国立公衆衛生学校卒業
1993年京都大学博士号(医学)取得
1999年3月産業医科大学医学部公衆衛生学教授

専門領域
保健医療システム論

主要著書
基礎から読み解くDPC第3版』(2011,医学書院)、『医療の何が問題なのか-超高齢社会日本の医療モデル』(2013,勁草書房)、『欧州医療制度改革から何を学ぶか 超高齢社会日本への示唆』(2017,勁草書房)、『地域医療構想のデータをどう活用するか』(2020,医学書院)、『ビッグデータと事例で考える日本の医療・介護の未来』(2021,勁草書房)

所属学会
日本公衆衛生学会、日本産業衛生学会、日本衛生学会、日本医療・病院管理学会

受賞歴
2018年 第70回保健文化賞受賞


2022年12月21日