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広報誌・コラム
Public relations Magazine

上昌広の
「これでいいのか日本の医療」

第3回 医師偏在対策の欺瞞

日本の医師は不足していない。偏在しているだけだ。問題があれば、医療界が行政と協力して対処する。

医師不足が問題になると、このような議論が横行する。果たして、そんな都合のいいことは出来るのだろうか。私は懐疑的だ。

私たちのチームは東日本大震災以降、福島県浜通りの医療支援を続けている。政府・福島県・医療界が一体となって浜通りの医療を支援している事になっているが、現場で見る光景は違う。「原発事故で我々は見捨てられ、福島県立医大が焼け太った」と批判する医師もいる。どういうことだろうか。

被災地の医師数の推移を見れば一目瞭然だ。厚労省の「医師・歯科医師・薬剤師調査」によれば、震災前の2010年12月末の福島県内の医師は3,705人だった。人口10万人あたり183人で、全国平均の219人を大きく下回る。

震災後はどうなっただろう。2014年12月末の県内の医師数は3,653人、人口10万人あたり189人だった。震災前から医師数は48人減少し、人口当たりは横ばいだ。

震災後、住民も医師も福島県を離れたことがわかる。ただ、これはやむを得ない。政府・福島県が如何に努力しようが、自らの意志で福島を去る人を翻意させることはできない。なぜ、浜通りの住民は「見捨てられた」と感じるのだろうか。

それは、被害が酷かった浜通りで医師が激減したからだ。相馬市や南相馬市が属する相双二次医療圏の医師数は2010年の236人から2014年の153人へと83人も減った。人口10万人あたり120人から86人となった。

相双地区の一部は原発事故により居住不能となり多くの住民が避難した。ただ、それ以上に医師が相双地区を離れた。

では、医師はどこにいったのだろうか。それは福島市だ。福島市を含む県北二次医療圏の医師数は1,228人から1,268人に40人も増加した。

福島県立医科大学(以下、福島医大)が位置する福島市に限定すれば、979人から1,029人へ50人も増えているのである。

福島県全体の医師は48人減だから、県外から入ってきたわけではない。周辺地域、特に相双地区から「吸い寄せた」ことになる。浜通りの人々が憤るのも仕方ない。

行政と医療界が一体となって支援した結果で、なぜこんなことになるのだろうか。それは日本の医療行政が構造的な問題を抱えているからだ。

厚労省は医師不足を認めず、偏在が問題と主張してきた。都道府県や大学医局と連携して、医師を計画的に配置することで偏在を是正しようとしてきた。専門医制度や地域枠入試はその一環だ。

注意すべきは、誰が「司令塔」になるかだ。読者の皆さんは国が責任を持って対応すべきとお考えだろう。

ところが、そもそも神ならぬ厚労官僚に医師数を適正に配置することなど出来ないし、国・都道府県・市町村という三層構造の行政システムで、厚労省がやれることには限界がある。原発事故で汚染された地域の除染などの巨大事業は国が直轄するが、多くは都道府県や市町村が担う。国の仕事は彼らに予算をつけることだ。

医療行政においても都道府県の権限が大きい。福島県の医療は県庁と福島医大が差配する。政府は、福島県と福島医大に莫大な予算をつけて応援した。

例えば、福島医大の2012年度の経常収益は約364億円だが、このうち132億円(36%)は補助金(運営費交付金を含む)や国・福島県からの委託事業だ。この金額は2017年度は164億円に増加する。

このカネは何に使われたのだろう。まずはハコモノだ。ネットで「福島医大」と「工事」で検索すると、「福島県立医大付属病院みらい棟」、「ふくしま国際医療科学センター」、「福島県立医大保険科学部新築」などの記事がヒットする。

ハコモノにはポジションが与えられる。福島医大の職員は2013年度の1,222人から、2017年度には2,418人に増加した。教員は516人から717人だ。この中の多くが医師だろう。

彼らのタスクのメインは「研究」だ。例えば、被曝の影響を研究する福島県民健康管理調査などはその典型だ。被災地は医療を求めているのに、福島医大がやっているのは研究ということになる。被災者から 「我々はモルモットか」と非難が集中するのも無理はない。

福島医大では同様の復興事業プロジェクトが林立し、特任教授などのポジションが設けられた。福島県内の医師が任命され、福島市内で医師が激増した。

これが行政主導の医師偏在対策の実態だ。国は県に、県は地元の大学に丸投げする。予算がついた大学は自らがやりたいことを推し進める。医師は人事権を行使しやすい医局員を異動させて確保する。こうやって大学の医師が増え、地方の医師が減るという本末転倒な結果が生じる。

大学医局の常だがトップには誰も逆らえない。桁違いの予算がつけば容易に腐敗する。

「福島医大のドン」と称される2008年から16年まで理事長を務め、現在も「常任顧問」で大学に残っているが、この人物の所業が頂けない。ワセダクロニクルと我々が立ち上げた製薬マネーデータベースを用いてこの人物を検索したところ、2016年度に製薬企業から依頼された講演会などを29件こなし、394万円を受け取っていた。

このような振る舞いは彼に限った話ではない。病院長を務めていた他の整形外科主任教授も55件の講演などをこなし、537万円の報酬を得ていた。

なぜ、彼らは製薬企業のアルバイトに明け暮れることができるのだろう。それは整形外科が大勢の医師を抱えているからだ。助教以上の常勤医は25人、うち7名は教授だ。ちなみに、相双地区の中核病院であ る公立相馬総合病院と南相馬市立総合病院の整形外科には常勤医は一人しかいない。

こんなことが罷り通るのだから、組織は緩む。不祥事が起こらないはずがない。総合情報誌『選択』は8月号で「福島県立医大で重大医療事故 厚労省が問題視する「組織的隠蔽」」という記事を掲載した。

医療事故とは、2015年末に整形外科で後縦靱帯骨化症の手術を受けた患者が、四肢麻痺を起こしたというものだ。病院側は過失を認めず、訴訟となった。

ここまではよくある話だが、福島医大の対応はいただけない。事故後50日間も院内調査を行わず、日本医療機能評価機構にも報告しなかった。

患者が証拠保全を申請した後に立ち上げた院内の事故調査委員会もお手盛りだった。医療安全管理部長は当事者である整形外科の医局員で、主任教授も病院長として参加していた。そして、報告書は、直接原因は不明だが、手術手技の影響は考えにくく、患者への説明も問題ないと結論した。これでは、組織ぐるみの隠蔽と言われても仕方ない。患者は激怒し、福島地裁に民事訴訟を提起した。

福島医大も危機感を抱いたのか、今年1月に外部委員による第三者委員会を設置し、2月に日本医療機能評価機構に報告した。6月にまとまった第三者委員会の報告書では福島医大の対応は厳しく批判され、厚労省は特定機能病院の取り消しを検討すると福島医大に伝えた。

そろそろ行政と大学医局に頼るのをやめたらどうだろう。統制による計画配置は利権と腐敗を生む。今回のケースは氷山の一角だ。表にでたのは、被害者の兄が相馬市内で開業する医師だからだ。

医師偏在、医師の働き方改革などの問題に本気に取り組むなら、行政に頼ってはダメだ。医師それぞれが自助努力を積み重ねるしかない。

 

(勤務医LETTER No.145 2019年12月)

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