老舗医院?の事業継承と経営革新
森川医院(能勢町)
森川 宗一郎
本年3月に父より医院を継承し開業致しました。当院は、大阪の“軽井沢”とも評される大阪府最北端に位置する能勢町で診療を行っております。開院から半世紀程続く地域に根ざした老舗医院?であり、私は三代目になります。一般的には創業100年以上の企業を「老舗」と呼ぶそうですが、同一業種で長年にわたり家業の理念を守り、技術を継承していると言う意味では当たらずと雖も遠からずでしょうか。
さて、老舗医院の継承開業と聞きますと先代院長や古株スタッフとの小競り合いはあるものの、新規開業と比べ順風満帆の船出だと思われる方も多いのではないでしょうか。しかしながらこの度の継承開業は些か前途多難なる状況でした。その理由の一つは、父の病没などの諸事情により長期間休院せざるを得ず、代々築いてきた多くの方々との繋がりが一旦途切れてしまったことです。『信頼を失うのは一瞬、 取り戻すのは一生』と言う名言がありますが、診療再開に際しこの言葉の重みを痛感致しました。世代交代をしながらも、絶え間なく事業を継続していくことの難しさを改めて感じると共に、これを機に事業、経営を革新し新たな医院を築いていこうと決意しました。
長期休診で失ったものもありましたが、得られたものも沢山あります。休診期間中に老朽化した医院の全面的な改装工事を行い、大幅なリニューアル、バリアフリー化を図りました。また、電子カルテをはじめ様々な電子機器を導入することにより業務の効率化、ヒューマンエラーの防止、マンパワーの大幅な削減を実現しました。更に、休診期間は慣習的に行われていた問題のある諸々の事案を刷新する良い機会でもありました。
『伝統は革新の連続』というのはある京都老舗企業の家訓ですが、まさに継承は革新の絶好の機会であり更なる成長の可能性と考えます。
創業100年以上の老舗企業を対象にしたあるアンケートによると、事業継承時の現経営者の平均年齢は約40歳で、その時の先代経営者の平均年齢は約64歳だったそうです。医療機関においてこの様な年代で世代交代を継続していくというのは至難の業かと思われますが、発展的継承のためには世代交代のタイミングは非常に重要な問題だと考えます。
継承は新規開業とまた違う様々な苦労がありますが、『受け継ぐ』という他では味わえない醍醐味があるのではないでしょうか。
甚だ私的な意見では御座いますが、継承をお考えの先生方の一助となれば幸いです。
[勤務医ニュースNo. 115:2013年10月25日号に掲載]