診療所に理念をもち、地域医療に貢献する

たちばな内科クリニック(堺市)
橘 克英

 阪和線堺市上野芝駅の近くに診療所を開設して2年半が過ぎました。時間がたつのは早いものです。2年半があっという間に過ぎ去りました。日々の診療で少しでも判らないことがあれば、保険医協会にいろいろと相談しお世話になっています。開院後6カ月目のときに、それまで非常勤であった看護師を常勤に昇格することにしました。その際に、「たちばな内科クリニック就業規則」なるものを作成し、手渡しました。その第1章第1条に診療所の理念を記載することにしました。たちばな内科クリニックはどのような理念の診療所なのか、あれこれ考えました。その際に私の頭によぎったことがあります。

義父の話です。義父は大阪市福島区で開業をしていましたが、同業者が病気になり余命いくばくかの状態になり、お見舞いのため面談をしているときに、あの松下幸之助さんが病室に入ってきたそうです。「先生、大丈夫でっか」と声をかけたそうです。その昔、松下幸之助さんが医療費も払えないときにその先生は、お金も取らず、診察をされていたことを、義父から聞きました。その先生がなくなるときに、松下さんがお見舞いに訪れたのです。その話を聞いて、現在でも赤ひげ先生はいるんだなぁ、と思い、また、社会のトップクラスの人はお世話になった人に対して、キッチリと礼儀を尽くすんだなぁ、と思いました。

そのことが私の頭によぎり、診療所の理念として、平凡ながら「地域医療に貢献する診療所をめざす」としました。また、スタッフもこの理念のもと、就業することを義務づけました。この理念のおかげで、私も、何も悩まずに仕事をすることが出来ています。どういうことかといいますと、いろいろと仕事の依頼が来ますが、この理念に合っているかどうかで、何も考えることなく判断が出来ています。往診に関して、私もこれは大変だなと感じることがあっても、何にも考えることなく全てお受けしています。

しかし、世間は大きく変わっていく感じがします。今までの常識が非常識に、非常識が常識になりつつあると感じます。今年からの特定健診で健康産業が医療に参入、後期高齢者医療制度で75歳以上のお年寄りから保険料を新たに徴収、レセプトのオンライン請求の完全義務化でそれ以外の請求は受け付けないなど、これからどうなるのか。私の診療所も大きな渦に巻き込まれようとしている感じがしてなりません。エラそうな理念をかかげましたが、どこまで歩いていけることやら。

[勤務医ニュースNo. 81:2008年1月25日号に掲載]