同業者からの紹介は心の支え

守口市 ふたむら皮膚科
二村 省三

 平成8年の開業から早いもので10年が過ぎました。大学では米国留学以外一度も、外の市中病院を経験せず、保険請求業務を含め実務も知らず、金もなくベッドから手術器械にいたるまでオール中古、開業当初から風雪の跡が漂っていました。

 始めから開業を目標にする医師など、いないと思いますが、私も教授交代―新しい研究の停滞の責任などを期にしての開業でした。 よく開業の動機に、「診療の理想の実現」などと耳にしますが、開業ではとてもできないでしょう。

 開業の要は、一言で言えばeinkommenです。皮膚科においてすら、病院の一人医長と同様、一人診療で生じる診断のかたよりと、不十分な検証そして、選択できる治療手段の限界など、これを悟らないと孤独感と欲求不満が募ります。もちろんこれらを補うため、大学での病理カンファレンスは欠かせませんし、最も重要な悪性腫瘍の診断とその治療紹介は、皮膚科開業医の基本的な責務です。市中でできるだけ正確な診断のネットワークを広げ、さらに大学や大病院でしかできない光線療法や光化学療法を、受診時間の限られた施設に留めず幅広く提供し、患者さんの利便性を高めるという点が、皮膚科開業による患者さんへの、最大のメリットかもしれません。

 開業すると大変だといわれる方もおられますが、一年中実験や動物の世話に明け暮れ、学会の期日に追われるストレスからすると何でもありません。

 開業でただ2つ。ひとつは、職員の管理=ほとんど下らないことの積み重ね=は、極めつけにうんざりです。これに有用なのが、英国の植民地統治で、歴史の勉強が実社会に役立つところです。

 もうひとつ、大学の看板の下では決して聞けない、患者さんの「生の声のどぎつさ」と「説明の虚しさ」は、なかなかなもので、疲れた心に縒りをかけてくれます。

 収入は大学時と比較にならないぐらい増えましたが、開業医というのは、自身が倒れればそれまでというdesparate な業態です。

 その対策も重要です。そして唯一の慰めは、他科と他の皮膚科医からの信頼と紹介です。患者の心は風しだいですが、同業者からの信頼は、開業を続けていく心の支えになります。

 これがないと開業医は、もはや保険点数かき集めマシーンに成り果てます。みなさんのご健闘をお祈りします。

[勤務医ニュースNo. 72:2006年4月25日号に掲載]