「医者は患者さん一人一人にまめでなければならない」
中央区 笹岡クリニック
笹岡 正弘
日本の医療の 8 割から 9 割は、我々開業医が担っていると自負しながら、毎日診療しています。私のクリニックのように、年代も様々、疾患も様々となると、日々のエネルギー消耗はきついものです。(自分から選んだスタンスですが)
最近思うことは、数年前からインフォームドコンセントや、エビデンスということばが話題になっていますが、よく考えてみると、これらのことばの意味する事は、すでに我々の大先輩達がやっていた事であり、今さらことばを変えて強調することではないと思います。
ある大先輩の開業医の先生が、おっしゃったことばが印象に残っています。
「医者は患者さん一人一人にまめでなければならない」まさに、我々は日々、一人一人の患者さんをまめに診て、話を聴くことが仕事だと言う事です。
私の診療のポリシーも、患者さん一人一人をまめに診れば、すなわち地域医療に貢献出来ることだと思っています。限界をしばしば感じることも多いのですが。悲しいかな、世の中の不景気は医者にも影響を及ぼし、なにかと電卓で収支を計算する事が多くなりました。もちろん経営が順調でなければ、一人一人に対して十分な医療が実行できない、という理論もあてはまります。
私の父も、四国の山村で開業医でした。父がいないと無医村になる地域でした。一代目であるがために、大変な苦労をしたことも知っています。しかし、私が医大生の頃、父が夜、酒を飲んでくつろいでいる時に、往診依頼の電話が鳴りました。母が電話を取り、父は医師会に出席して居ない、とウソをついていました。その場面を見て私は、「何でウソをつくんや」と、父母とケンカになりかけたことを思い出します。今になって、父がいくら一人で頑張っても限界があり、しんどくて居留守をつかったのだなと、同情もします。
「医者も人間だ」「家庭もあるし」「おまえらの教育費もいるし」と、父が言ったのを思い出します。
今ちょうどそう言っていた頃の父と、同じ年代になりました。住宅ローンと教育費の事で、いつも銀行さんに頭を下げています。全て理屈はわかるけど、そんなにわり切らなくてはいけないのかと悩みます。
数年前、他の先生方と夕食会や勉強会で、話をする機会が何度かありました。その時の話題は、経営やら税金対策、ゴルフやレクレーションの話が中心でした。何回か仲間面して参加しましたが、あまりにも純粋な医療の話題が出ないので、参加しないようになりました。
患者さんに、こうしてあげたらいいだとか、地域でこうしたら貢献出来る、だとかの話題がなぜ出ないのでしょうか。我々はなぜもっと、医者である事の原点に戻れないのでしょうか。私も出来るだけ、有言実行しているつもりですが、出来ない事も多いのは確かです。毎日、もがきながらやっています。
[勤務医ニュースNo. 62:2004 年 7 月 25 日号に掲載]