認知症ネットワークについて―前編
阪南病院
西側 充宏
超高齢化社会になるぞと警鐘が鳴らされそれがどんどんと現実化している昨今、対策はまだまだ充分であるとは言えません。認知症患者は近い将来莫大な数になると言われております。しかし高齢者の医療費が国の財政を圧迫しつつありその結果、高齢者や認知症患者さんの診療報酬は削られ認知症を診る診療機関はそれに追いついていません。その打開策として国はネットワーク作りを進めています。
認知症疾患医療センターを中心とする基幹病院が認知症の鑑別を行い、それを地域のかかりつけ医に返す。独居の患者さんには支援する人が日常生活のサポートを行う。地域が弱者を支えるといった基本的な考え方は、日本の「村」社会がかつてそうしていたやり方と非常によく似ています。実は認知症に限らず病人や子供の支え方もこうしたやり方が非常に有効です。「みんなで支え、みんなで見守る」理想的なコミュニティー。自宅(地域)で生涯を終えることができ医療費も軽減できます。
現代は、それぞれの家族が核家族化しこうした村社会の機能がなくなり、病人や弱者に非常に住みにくい環境になりつつあります。私たちの認知症疾患医療センターは認知症患者さんを支える基幹病院となるものですが、すべてを受け容れるには認知症患者さんの数が膨大ですぐにパンクしてしまいます。認知症患者さんを地域で見ていただきBPSDなどの症状が活発化したら入院していただく。BPSDが治まればまた地域に返す。このやり方を始めて当院では2年になりますが、まだまだネットワークと呼ぶには充分ではありません。
一つには日本の医学教育が専門性を重視していることもあるでしょう。私たちは各専門の科についての専門性を教えられてきました。しかし高齢者患者さんはどうでしょうか。認知症で紹介されてきた患者さんもすぐに癌になるかもしれません。糖尿病や心臓疾患を合併しているかもしれません。高齢者医療はすなわちトータル医療です。専門を超えた全体的な視野が不可欠です。そうしたときに「私は専門じゃないので診れません」ということになりがちですが、そこで「専門ではないけれども診てやろう」という気持ちで接していただけることが重要です。実際の患者さんの紹介もさることながら知識やノウハウのやりとりもネットワークでカバーしています。
当院では認知症患者さんの診断・治療、支え方などについて「認知症かかりつけ医のスキルアップ研修」というのを年に1回開かせていただいております。(平成24年12月15日開催)
次回は、堺市のネットワークなどについてお話しします。
[勤務医ニュースNo. 110:2012年12月15日号に掲載