勤務医が知っておきたい予防接種の動向 ―不活化ポリオワクチンについて
(医)ふじおか小児科
藤岡 雅司
2008年以降、わが国でも接種できるワクチンがようやく世界並みになってきた。ワクチンで防げる病気(vaccine preventable diseases:VPD)に対する社会やマスコミの関心は、これまでになく高まってきている。ワクチンに関する話題のうち、現在もっとも注目されている不活化ポリオワクチン(inactivated polio vaccine:IPV)について説明する。
2012年9月から開始されたのは、世界中で広く使用実績のあるサノフィパスツール社のSalk株IPV(商品名:イモバックスポリオ)である。11月からはジフテリア百日せき破傷風混合ワクチン(DPT、三種混合)に世界初のSabin株IPVを加えた国産の四種混合ワクチン(DPT-IPV)の導入も予定されている。阪大微生物病研究会(微研)のテトラビックと化学及血清療法研究所(化血研)のクワトロバックである。
今回中止されたSabin株経口ポリオワクチン(oral polio vaccine:OPV)は、1961年半ばにわが国において世界ではじめて一斉投与され、ポリオの大流行を劇的に終息させた。OPVは世界ほとんどの国におけるポリオの排除に成功した。しかし、野生株ポリオの発生がなくなった国・地域では、OPVの副作用であるワクチン関連麻痺性ポリオ(vaccine associated paralytic poliomyelitis:VAPP)が問題となった。
VAPPはOPVを使用する限り避けることのできない事象であるが、先進諸国では1990年代半ばからIPVを速やかに導入した。一方、わが国では1980年を最後に野生株ポリオの発生が皆無になったにも関わらず、IPV導入が遅々として進まなかった。IPVの国産化にこだわったことが、導入遅延の最大の理由である。極めてまれ(100万接種1~2例)であったとはいえ、その間に発症したVAPP被害者の後遺症が治癒することはない。
現時点の接種スケジュールはDPTと同じである。定期接種の対象は生後3か月から7歳6か月未満まで。標準的には生後3か月から開始し、3週から8週間隔で3回(初回)接種し、半年以上(標準的には1年から1年半)空けて1回(追加)接種する。
OPVを接種していた回数によって、IPVによる定期接種の回数は異なる。OPVを1回も接種していなければIPVを4回、OPVを1回接種していたらIPVは3回。 OPVを2回接種していたらIPVによる定期接種は行わない。また、未承認IPVを受けていたら、医師の判断と保護者の希望に応じて、定期接種IPVの回数を減らすことができる。自治体によっては、未承認IPVで受けた回数分は定期接種IPVを受けることができないと説明しているところもあるようだが、国は未承認IPVを4回接種していても定期接種として1回目から受け直すこともできると回答している。
なお、OPVに比べて高額なIPV導入に際し、現時点では実費徴収を行う市町村はないようである。今後の課題としては、(1)Salk株IPVとSabin株IPVの互換性の確認、(2)欧米で実施されている4歳以降の追加接種の検討などがある。いずれにせよ、接種方法が経口から注射に変わることで、接種率がさらに低下しないように留意しなければならない。
[勤務医ニュースNo. 108:2012年9月15日号に掲載]