シミュレーション基盤型医学教育の潮流 2

協仁会小松病院心臓血管科 部長
森田 寛

 医学教育方略の中に「学習のピラミッド」という教育概念があります。これは学習方法の差がどのように学習定着率に影響するかを示した概念です(図1)。最初の4項目(講義、読書、視聴覚教材、デモンストレーション)は受動的学習方法であり、底辺の3項目(討論、体験 、教える)は個人参加型学習方法です。シミュレーション基盤型医学教育とは個人参加型学習方法を人体以外の環境で実現し、学習効果を高めようとするものです。このピラミッドで注目すべきことは「教える」ことで90%が記憶に残るということです。研修者が他者に対し教育活動を行うということは自身の学習効率を高めるためにも重要です1)。

シミュレーション基盤型医学教育に必要となるシミュレータに関しては様々な機器が考案されていますが、心血管治療手技など高度な手術を再現するシミュレータの開発は困難でした。21世紀になってからはコンピュータグラフィックを利用したヴァーチャルリアリティ(virtual reality, 以下VR)シミュレータが開発されました。「MENTICE VIST」(Mentice AB社)は代表的なVRシミュレータですが、これらVRは専用カテーテルを挿入すると内部で認識され、仮想空間内で情報を描画します(図2)。またデバイスに当たる抵抗値が触覚インターフェースを通してカテーテルに伝えられ、 術者の指先に伝達されます2)。VRは年々進歩しており、新しい教育方法として利用されています。しかし今のところ実際のカテーテルデバイスを使用してのトレーニング、性能実験、機能評価はできません。

著者はカテーテルトレーニング機能とデバイス実験評価機能を兼ね備えた心血管シミュレータ「Circuit Cardiovascular Catheterization Simulator」(いわさき社、ジャスト・メディカルコーポレーション社)の研究開発に携わっています(図3)。multidetector-row CT(MDCT)画像などを元に心血管を樹脂で構築し、術者のもつカテーテル手技のリアルな感触を再現するよう工夫しております。冠動脈だけでなく、脳動脈、内頸動脈、下肢動脈、透析用シャントなど脳血管、末梢血管治療手技の研修、デバイス評価を目的として設計しており、現在病院施設やメディカルトレーニングセンターなどで活用されています3)。シミュレーション医学教育は、研修者が本物の患者に危害を加えることなしに失敗から学ぶという点で安全であり、今後はさらなるソフトウェア、教育方法の開発が求められています。

参考図

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図1 学習のピラミッド

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図2 MENTICE VISTTM (Vascular Intervention Simulation Trainer) Mentice AB

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図3 CircuitRCardiovascular Catheterization Simulator IWASAKI CO., LTD., Just Medical Corporation


文献
1)日本医学教育学会監修 医療プロフェッショナル ワークショップガイド 篠原出版新社 P.50-51
2)Gallagher AG, Cates CU. Virtual reality training for the operating room and cardiac catheterization laboratory. Lancet 364: 1538-40, 2004.
3)森田寛: Interventional Cardiologistを育成するための卒後教育,2-3.PUIGs.Coronary Intervention Vol.7 No.4:30-36, 2011.

[勤務医ニュースNo. 102:2011年9月15日号に掲載]