癌の集学的治療における温熱療法と免疫療法

大阪がんクリニック副院長
日本ハイパーサーミア学会評議員・日本バイオセラピー学会評議員
武田 力

 日本人男性の二人に一人が癌に罹患する現在。基本的な治療としては手術、放射線、抗癌剤などの薬物療法が三大治療といわれるものですが、これらの治療だけでは完治できなかったり、再発したが抗癌剤の副作用が強くて治療が継続できないことも少なくありません。今副作用の少ない第四の治療法として電磁波温熱療法(ハイパーサーミア)と免疫療法が注目されています。

温熱療法は癌が熱に弱いことを利用した治療法で癌病変を42~43度に加熱する治療法です。ラジオ波のように組織を焼ききる治療ではなく、癌にアポトーシスを引き起こし周囲の免疫応答を増強してゆっくり癌を退治します。理学療法の入浴やマイクロ波では体表から0.5cmまでしか温度は上がりませんので深部の癌を42~43度に加熱するには高周波を用いた電磁波温熱療法しかなく、これをハイパーサーミアといいます。もともと京大の放射線治療部門で放射線療法を増強する目的で開発創設され健康保険にも収載されました。その後放射線がなくも単独でも健康保険にみとめられている治療法です。現在日本で使用されているのはほとんどサーモトロンRF8というCTのような大型の機械のみです。

副作用がほとんどない事から、他の治療が効かなくなって見放された患者さんの治療法となっていた時期もありますが、最近では放射線にくわえて抗癌剤や免疫療法との併用が有効でさかんに行われています。抗癌剤との併用においては、温熱をかけると抗癌剤が癌部分に集積し健常部分に行きにくい事と、抗癌剤の耐性をおこす物質を温熱が破壊する事が、抗癌剤の効果をあげることになり、ひいては副作用の軽減にもなります。いちど効果のみられなくなった抗癌剤が温熱と併用することにより効果のみられるようになることもあります。

現在電磁波温熱療法の保険点数は「いちれんの治療に9000点」とされています。「いちれん」が何回を示すかは決まっておらず、日本ハイパーサーミア学会が中心になって検討し6-8回終了した時点をすすめています。治療法の進歩により一年以上長生きされる進行再発癌患者さんも増えてきました。学会は「いちれん」終了後約3カ月たった時点で「あらたな治療」と指標をだし全国的にも適応されているようですが、まだ減点されたりする地域もあるようです。効果があって患者さんのニーズにこたえる運用のために学会としても認識を深めてもらうように努力をしています。

次に免疫療法についてですが、放射線や抗癌剤を使っても免疫不全のマウスでは癌が完治せず、完治のためには免疫細胞が必要なことはよく知られていますが、かといって免疫だけで大きくなった癌がなおるわけでないこともよく知られています。人の一生には約500回癌が発生すると言われていますが、ほとんどの癌は免疫機構が退治します。その網の目をかいくぐって増殖したのが診断されたころの癌病変ですから、免疫機構から逃れるすべを持っています。したがってただ免疫療法をしても効果がみられることが少なくておかしくありません。そこで免疫反応がおきやすい条件をつくることが必要になります。癌が大きくなってきますと免疫の抗原提示能などが低下し癌に好都合な環境になっていますが、ハイパーサーミアをかけますと抗原提示能も回復し、免疫療法をするには最適の環境となります。

いま一言で免疫療法といいましたが、この中には多くの治療法がありますが、現在注目されているのが、樹状細胞療法、活性化リンパ球療法(この中にNKやTがあります)そして癌ワクチン療法であります。癌が発生したとき、その表面の癌抗原を認識するのが樹状細胞であり、樹状細胞からうけた情報をもとに癌を攻撃するのが活性化リンパ球です。活性化リンパ球は体外で培養したキラー細胞を体内へ移入しますので早く効果がでますが、投与している時しか効き目がありません。また肺・肝の病変以外への効果は限定されます。樹状細胞は体内でキラー細胞を作りますので時間がかかりますが長期間免疫が保たれます。また肺・肝以外のほとんどの部位の癌にも効果が得られます。

このように電磁波温熱療法、免疫療法は副作用が少なく癌治療に有効な治療法であります。何らかの事情で三大治療ができない患者さんに電磁波温熱療法、免疫療法のみで有効であった患者さんもありますが、多くのデータでは標準治療に上乗せする事により効果が上がっています。したがって第四の治療を行うときには標準治療がしかるべく行われているのかが重要な点であります。私は大学病院で消化器外科および乳腺外科の専門医として標準治療を行いながら免疫療法も施行してきましたが、標準治療を行う施設と温熱・免疫を行う施設との関係は必ずしもよくありません。標準治療を行う施設では患者さんが希望したときには併用により有効である場合があることを理解していただき、温熱・免疫を行う施設はその治療法だけではなく標準治療のこともよく患者さんに説明すべきと考えます。

[勤務医ニュースNo. 99:2011年2月15日号に掲載]