眼内レンズ挿入患者のQuality of Vision

奈良県立医科大学・眼科
竹谷  太

 眼球光学系において、収差と光の散乱が結像状態に影響を及ぼすことが知られている。収差については、低次の収差である球面(遠視・近視)や乱視成分だけでなく、高次収差の代表的な成分である球面収差やコマ収差が大きいことにより、結像特性が著しく低下する。しかも、屈折矯正手術のLASIKの普及により、より正確に眼球全体の光学特性を評価することが求められるようになった。日本では、2001年12月に眼球に高次収差の測定を行う波面センサーが登場した。私は本機を用いて、種々の眼内レンズ(IOL)挿入眼に対して眼球高次収差の測定を行い、それまで主に使われていた球面IOLについて、IOLの光学設計の違いにより、眼球の高次収差、特に球面収差の成分に違いが出ることを示した。その後に非球面IOLの登場により、より積極的に眼球全体の球面収差を減らすことが可能になったが、球面IOLの選択する場合IOLの光学設計に注意が必要であることを示した。
また、IOL挿入眼ではIOLの傾きや偏位が乱視に影響することが知られていた。私はIOL挿入眼に対して、高次収差だけでなくIOLの傾きや偏位量の測定を行った。IOL挿入眼において、IOLの偏位よりも傾きが高次収差の成分であるコマ収差成分に有意に正の相関があり、傾きが大きくなるほうがコマ収差の成分がより大きくなることを示した。IOLの偏位や傾斜は乱視だけでなく、高次収差にも影響を及ぼすことを報告した。
これらのことから、球面IOLを使用する場合においても、より球面収差の小さなIOLを選択し、IOLの傾きや偏位を少なくすることで、眼内レンズ挿入患者のQuality of Visionがあがることを示した。
最近では、高次収差の増加するLASIK術後に横方向の動体視力を測定し、スポーツビジョンと高次収差との関係について研究しているところであり、一部の成果については日本眼科学会等で発表を行った。

参考文献
Taketani F, Matuura T, Yukawa E, et al. Influence of intraocular lens tilt and decentration on wavefront aberrations. J Cataract Refract Surg. 2004 Oct;30(10):2158-62. Taketani F, Yukawa E, Yoshii T, et al. Influence of intraocular lens optical design on high-order aberrations. J Cataract Refract Surg. 2005 May;31(5):969-72.
竹谷 太.眼高次収差がスポーツビジョンに与える影響
~屈折矯正手術レーシックによって引き起こされる眼球高次収差と動体視力の関係について~財団法人上月スポーツ・教育財団スポーツ研究助成事業 第5回(2007年)助成対象

[勤務医ニュースNo. 93:2010年2月25日号に掲載]