性感染症の診断と治療

1.マイコプラズマ・ジェニタリウム(MG)と腟トリコモナス(TV)の核酸同時検査(TV/MG検査)が2022年7月から保険適用となった。

男性の非淋菌性尿道炎(NGU)の病因診断に心強い味方ができた。その一方でMGがマクロライド系に耐性なので、治療をいつ開始するかや選択する抗菌薬の選択をどうするか、かえって悩ましくなった。
検査を外注している医療機関において、現時点で私が妥当と考えるNGUの診断・治療手順を記す。①初診時の尿道分泌物グラム染色でNGUと思われる場合は尿の淋菌・クラミジア核酸同時検査結果が判明する翌日まで治療開始を待つ。②クラミジア陽性の場合、アジスロマイシン1000mg単回処方。クラミジア陰性の場合は尿TV/MG検査を追加し、3~4日後にMGの結果がわかるまで更に治療開始を延期するのを原則とするが、投薬希望が強い場合は当面の治療としてドキシサイクリンを7日分処方。③MG陽性と判明したらシタフロキサシン7~14日分処方に変更。
初診時の検査でNGUと思われた場合は、MG性尿道炎の可能性とその治療困難性をあらかじめ説明しておいた方がよい。
私事になるが、昨年の大阪府国保連合会へのレセプト請求において、上記手順でTV/MG検査を実施し、かつ、「クラミジア核酸陰性にてマイコプラズマ核酸検査実施し、結果は陰性だった」と詳記したにもかかわらず、「当該検査実施が告示・通知の算定要件に合致していない」と判定され、「当該検査はTV症またはMG感染症の患者に対して算定するものである」というコメント付きで減点された。これは当該検査が保険適用になった際のいわゆる「留意事項」の改正通知に照らして到底承服できない査定であり、直ちに「留意事項の解釈を誤っており、結果的に陰性だから減点するとの判断は不適正である」として減点の取り消しを求め再審査請求を行った。請求から5か月を経て、減点分を復活する再審査結果通知書が届いた。似たような減点の御経験がある先生の参考になれば幸いである。

2.梅毒の治療薬としてステルイズが2022年1月ごろから使用可能となった。

ステルイズはベンジルペニシリンベンザチン筋注製剤である。プレフィルドシリンジになっており、成人では1シリンジ240万単位のものを使用する。感染から1年以内の早期梅毒では単回筋注、感染から1年以上経っている後期梅毒では1週おきに3回筋注する。まれにニコラウ症候群という重篤な急性の副作用(筋注部位周辺の激痛をともなう壊死)が起こることが知られており(図)、これを回避するためにメーカー(ファイザー)が作成した「適正使用ガイド」に従って使用することが求められている。適正使用ガイドはファイザーから冊子体を入手するか、ファイザープロのサイトからダウンロードする。
なお、日本性感染症学会では梅毒治療の第一選択として、アモキシシリン内服(1回500mg・1日3回・28日間)とステルイズ筋注を同等の位置付けにしている。
アモキシシリンのメリットはいわゆる診断的治療が行えることや副作用出現時に直ちに中止できることである。ステルイズのメリットは服薬アドヒアランスの問題を考えなくてよいことである。

 

図 ベンジルペニシリンベンザチン筋注による
ニコラウ症候群(右殿部の筋注部位周辺の壊死)
(Shelley BP, et al: Annals of Indian Academy of Neurology 22:104, 2019 より引用)

 

3.淋病(淋菌性咽頭炎、淋菌性尿道炎、淋菌性子宮頸管炎)の診断・治療についての私見

淋菌性咽頭炎について、細菌培養陽性をもって確定診断としている医療機関はほとんどないと思われるが、培養陽性をゴールドスタンダードとした場合、咽頭の淋菌核酸検査の陽性一致率が30%程度であることは認識しておく必要がある(すなわち過半数は偽陽性と考えている)。
淋菌性尿道炎は軽症化が著しく、潜伏期間が2~4週間と長い症例や膿性分泌物・排尿痛がほとんどない症例が珍しくない。初診時の問診・検査所見でNGUと思われても淋菌クラミジア核酸同時検査を実施することを勧める。
治療については、多剤耐性の傾向は変わっておらず、セフトリアキソン1g単回静注の一択である。

 

古林 敬一(ふるばやしけいいち) プロフィール

1982年 自治医科大学卒業。
25年間、大阪府の出先機関(保健所など)に勤めた後、
2008年から現職(そねざき古林診療所所長)。
JR大阪駅近くの繁華街で性感染症皮膚科を標榜し、診療に従事。
年間40例前後の梅毒の新規患者を診療。2024年1月閉院。
日本性感染症学会ガイドライン委員会委員。