新型コロナウイルス感染症の小児重症・中等症について

新型コロナウイルスに感染しても小児は重症化しない、と言われてきました。しかし、感染者数が増加するにともない重症化する小児もでてきています。日本集中治療医学会の小児集中治療委員会は、2020年3月にCOVID-19ワーキンググループを設置し、その実態把握に務めてきました。そして2021年8月の第5波の時から、日本集中治療医学会会員と日本小児科学会会員とに広く協力をよびかけ、小児重症・中等症例の報告システムを構築しました(https://www.jsicm.org/news/news220530.html)。本システムの報告対象症例は以下です(1および2、かつ3のいずれかを満たすもの)。

  1. 年齢20歳未満
  2. 抗原あるいは遺伝子検査によるCOVID-19確定例、あるいは疑い症例
  3. 症候
    1)酸素投与以上を必要としたCOVID-19肺炎(中等症II、重症相当)
    2)小児COVID-19関連多系統炎症性症候群(MIS-C)
    3)その他の病態(例:けいれん重積・在宅人工呼吸管理)で、モニタリングや酸素投与・人工呼吸などを要し、SARS-CoV- 2陽性・濃厚接触で専用病床を必要とした症例

 

第5波の時には2021年8月末が症例発生のピークで、50件が本システムに登録されました。2022年1月初旬からの第6波とそれに続く第7波では症例数が急増し、10月末までに約500件登録されました(図)。小児の新型コロナウイルス感染症の臨床像は多彩です。肺炎の他には第6波ではクループ症候群が目立ちましたが、第7波ではけいれんや急性脳症として登録される症例が増えました。

2022年3月10日から基礎疾患に関する情報収集を追加しました。そこから9月末までの約半年間に登録された373件を解析したところ、基礎疾患のない症例が244件(65.4%)と、約3分の2を
占めたことが分かりました。さらに、国立感染症研究所の調査(新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第一報)(https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2559-cfeir/11480-20-2022-8-31.html)によりますと、2022年1月1日から2022年8月31日までに報告された死亡例は41例でした。うち内因性死亡は29例であり、その約半数(15例)に基礎疾患がありませんでした。これらのデータからは、頻度が高くないとはいえ、基礎疾患のない小児も重症化することがあり、残念なことに亡くなった小児もいたことが分かりました。

新型コロナウイルス感染症の重症小児を受け入れられる施設や病床数は非常に限られています。日本集中治療医学会の重症症例登録システムに登録されている全国の小児施設は34施設であり、新
型コロナウイルス感染症の人工呼吸管理可能施設はこのうち28施設にとどまり、各施設で用意された病床数を合わせても全国で50床程度でした(調査当時)1)。今後さらに重症小児が増えると重症小児の医療体制は危機的な状況になり、その場合は都道府県の枠を超えた連携や、成人用の集中治療室との連携が非常に重要になります。

一方で、重症小児の発生数を抑えることができればそれに越したことはありません。そのためには社会全体で感染拡大を抑える努力が重要です。手指衛生などの感染対策に加えて、予防接種の
効果についても分かってきています。小児を守るためには、周囲の成人の予防接種が大切です。小児への予防接種については、日本小児科学会が2022年11月に生後6ヶ月以上5歳未満の小児への
新型コロナワクチン接種に対する考え方を公開しました(http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=466)。このような情報を吟味しつつ、私たちがどうすること
が小児を守ることにつながるのか、考え続けたいと思います。

 

参考文献

  1. 黒澤寛史、青景聡之、池山貴也、他.日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会および日本集中治療医学会小児集中治療委員会日本小児集中治療連絡協議会COVID-19ワーキンググループ活動報告第2報.日小児会誌2021;125:521-7.

黒澤 寛史(くろさわ ひろし) プロフィール

職歴

2000年
東北大学医学部卒業
仙台市立病院 小児科研修医

2002年
国立成育医療研究センター
手術集中治療部レジデント

2004年
神戸市立医療センター中央市民病院
救命救急センター

2007年
静岡県立こども病院
小児集中治療センター

2011年
フィラデルフィア小児病院
シミュレーションセンター
リサーチフェロー

2013年
メルボルン小児病院 集中治療科
クリニカルフェロー

2015年 9月
兵庫県立こども病院
救急集中治療科 医長

2016年 4月
兵庫県立こども病院
小児集中治療科 診療科長

学位
医学博士

認定医・専門医
救急科専門医
集中治療専門医
小児科専門医・指導医
麻酔科標榜医

著書
PICUハンドブック