日常診療で出会う中高年女性の泌尿器疾患

山口あきこクリニック 院長
山口晶子(大阪市中央区)

今回は、女性特有の泌尿器科にまつわるQOL疾患(女性泌尿器科疾患)、特に日常診療のなかで出会うことの多い疾患・症状を中心にお伝えしたいと思います。
誰にも言えない尿トラブルは40歳頃から増え、中高年女性の3人に1人は尿失禁に悩んでいるというデータがあります。また閉経前後の更年期症状および、閉経後の萎縮性膣炎に悩む女性も多く、生命に関わる疾患ではなくまた恥ずかしいという思いを抱きやすい病状のため、ひとりで抱え込んでいる患者様の多いことが現状です。また、解剖学的には、骨盤内に女性生殖器である子宮・卵巣が存在し、外陰部には、尿道・膣・肛門が並列しており、各々泌尿器科、産婦人科、消化器科と取り扱いができる診療科は異なるため、患者様の立場からは受診すべき診療科の判断が難しく、また自分自身の外性器の状況が判断できず症状をうまく伝えることができないことも問題となります。
今回は外来診療において、患者さんからのよくある症状の訴えから推測される疾患を図にまとめました。その中でも外来で診察する頻度の高い疾患・症状についてまとめてみます。

頻尿

中高年女性で訴えが多い症状のひとつです。定義上は、起きている間の排尿回数が8回以上のものを頻尿、また睡眠中は2回以上のものを夜間頻尿とします。患者さん自身がどの程度生活に支障を感じているかを私は治療するかどうかの基準としています。
頻尿の中で最も頻度が高い疾患は過活動膀胱ですが、頻尿=過活動膀胱として、内服薬を処方する前に、①尿検査②残尿測定③内服薬、飲水量の確認、が必要です。①尿検査で細菌尿を認めた場合は、抗生剤による加療後、頻尿が続けば過活動膀胱として加療を行います。血尿を認めた場合は、腫瘍・結石の可能性もあり泌尿器科に紹介してください。②残尿が100ml以上の場合は、安易に過活動膀胱の治療を行えば、尿閉になるリスクが高くなります。神経因性膀胱の可能性があり、泌尿器科紹介が必要と思われます。③利尿作用のある薬剤服用中の場合、可能な範囲内で服用時間の変更を考慮してみて下さい(例:夜間頻尿の患者様で、夕食後に降圧剤など服用している場合は夜間多尿になる可能性があります)。また過度な飲水により、多尿に伴う頻尿となります。多飲・多尿ともに1日3L以上が目安になります。私は、体重×20~30mlが1日飲水量の目安、また尿の色を見て脱水などをある程度推測するようにとお話ししています。以上①②③にておいて、問題なければ、β3作動薬の処方から開始しています。過活動膀胱の内服薬は尿閉のリスクその他、便秘・口喝など中高年女性に起こりやすい副作用がありますので少量からの慎重投与をお勧めします。もし薬剤投与にて改善しない場合は、泌尿器科にて、抗コリン剤の併用、干渉低周波治療に加え、ボツリヌス毒素膀胱内注入療法、仙骨神経刺激療法などの新しい治療が保険適応にて行えるようになっています。

排尿痛

排尿時に痛みを伴う症状です。排尿の痛みの時期・状況の問診が診断の助けとなります。①排尿終末時痛は、一般的に膀胱炎の典型的な症状です。検尿所見で細菌尿を確認の上、抗生剤処方にて加療します。女性は男性よりも膀胱炎に罹患しやすい解剖学的な構造がありますが、特に中高年以上の女性はエストロゲン分泌量が低下し、膣や膀胱・尿道の粘膜が菲薄化して炎症を起こしやすく、細菌性の膀胱炎に罹患しやすくなります。症状は排尿時痛、残尿感、頻尿のような典型的な症状に加え下腹部、外陰部などの不快感を感じやすくなります。無細菌性の場合は女性ホルモン補充も治療の選択肢となります。細菌性膀胱炎と鑑別が必要な間質性膀胱炎ですが、排尿前(蓄尿時)に痛みがあり、排尿後痛みが消失すること、畜尿時痛のため排尿し頻尿であること、尿検査で細菌感染(-)であることが特徴です。間質性膀胱炎の診断には泌尿器科的な検査が必要です。診断がつかない場合、患者様がドクターショッピングをする可能性もあるため、疑った場合は、泌尿器科に紹介してください。最後に排尿時以外でも排尿時痛があり、尿検査で細菌尿を認めない場合は、外陰部ヘルペスなどの可能性が高いため、加療しても改善しない場合は、婦人科などへの受診を勧めてください。

尿失禁

少しでも尿漏れを自覚したら、尿失禁となりますが、こちらも患者様が日常生活で困っているかどうかが治療するかの判断基準になります。①過活動膀胱に伴う切迫性尿失禁は先に頻尿で述べたとおりです。②腹圧性尿失禁は、尿失禁の量(パッドテストを行う)に応じて、内服治療もしくは手術を選択します。スピロペント服用で副作用があるもしくは日常生活に支障がある場合は手術をおすすめしています。③溢流性尿失禁(神経因性膀胱)は反復性膀胱炎を起こしやすい患者様も多く、自己導尿など残尿を軽減する治療を行っています。④機能性尿失禁はトイレに行くまでの時間がかかるために間に合わず失禁してしまうので、早めに声かけしての排尿、トイレの位置の工夫などをしています。

皆様の日常診療に、少しでもお役にたつことができればと思っています。