血液内科専門クリニックの3年間を振り返って

2018年の5月に血液内科の専門クリニックを開設してから、はや3年が経過しました。開業までは、大阪市内の大病院の血液内科部長を10年以上にわたって務めましたが、その間、高齢化と治療の進歩などによって、年々患者数が増えて医師不足が加速していることを実感しました。そして、定年になって患者さんを後任に託しての仕事の終え方に、無責任、かつ、不完全燃焼になるのではないかという思いが募りました。血液内科はとても専門的な特殊領域のため、開業医がそれを支えるという概念は、社会にももちろん自分にもなかったのですが、急にそれが可能かもしれないと思い立ったのは2017年の春ごろでした。クリニックの患者さんは血液疾患か、その疑いのある患者さんに限定。看護師と事務職以外に薬剤師と血液検査技師を常勤で雇用し、院内での包括的な血液・生化学検査、白血球目算分類、骨髄検査、輸血、注射によるがん化学療法、抗がん剤の院内処方など、大病院の血液内科専門外来と同等の診療機能を目指すというビジョンでした。その後は、天からの不思議な応援かのように、不肖の私には似つかわしくない素晴らしい協力者が次々に現れました。例えば前例のない事業計画への高額融資を引受けてくれた物好き銀行員、心から応援してくれようとする様々な関連業種の社長さんや製薬会社の元重役さん、大病院を辞めて働くことを申し出てくれた専門スタッフ、さらには強固な連携を申し出てくれた母校の大学病院などです。最初は話半分で始めた計画が瞬く間に後戻りできなくなり、1年と少しで無事?開設にいたりました。でも、開設後はさらに大変で、模範となるモデルもない状況で、多職種の連携の在り方をめぐってスタッフ間での喧々諤々の話し合いが続き、辞めてしまうスタッフも多く出ました。事務長的な役割を引き受けてくれている妻とも何度も大喧嘩をしました。準備期間も含めた約4年で、10年を軽くこえる人生を歩んだ気がしています。
さて、開業して感じたこと。それは「専門クリニックは案外いける!」ということです。今では、悪性リンパ腫などの各種血液がん、あるいは特発性血小板減少性紫斑病などの血液難病など、血液内科の患者さんだけで1月あたりのべ800名くらい来院されます。病院よりも少ない医療費で、質の高い専門診療が可能だという感触を得ています。病院と違って、待ち時間が短く曜日も変更しやすいと患者さんからも好評ですし、夜勤や休日出勤がないため子育て中のスタッフも安心して患者さんに寄り添うことができます。ただし、現状では収益性は別です。病院と同等の医療を行っても、クリニックであることを理由に算定できない点数も多くあり、安定経営ができているとまでは言えません。今後、地域医療の役割がますます大きくなっていく我が国において、このような形の専門クリニックが常識となるように社会に働きかけていくことが大きな使命だと考えています。