コロナ禍におけるメンタルヘルス不調について

医療法人千樹会 伊藤クリニック
伊藤 英樹(精神科医)

 皆さんこんにちは。大阪市平野区にございます、医療法人千樹会伊藤クリニックの伊藤英樹と申します。開業医をする傍ら、(医)国際心身医学研究所、(株)ジャパンイノベーション代表、大阪市立大学学長アドバイザー、(株)ニプロ医療研究アドバイザー等、官民に及んで精神医療に関する臨床部門、研究部門のお仕事をさせていただいております。
 今回、私が開発しましたうつ病評価尺度Jiテスト(簡易型うつ病スクリーニングテスト)をコロナ禍の昨年5月から8月にかけてWeb上で使用し約2万人の人々のメンタルヘルスをリサーチ致しました。そのご報告をこの紙面をお借りしてさせていただきます。
 その前に実施したJiテストの内容とその成り立ちについて少しご説明させていただきます。2013年春、私の頭の中で「一般外来診療で役立つ簡易型精神疾患スクリーニングテストがあれば先生方の外来がもっとスムーズになるのでは?」との発想が浮かびました。特にうつ病に関しては早期発見、早期治療が大切であり、またその殆どの患者さんが先ず一般外来を訪れることはすでに先生方ご存知の通りです。その中でも軽度うつ病の診断は難しくそのほとんどの症例が身体疾患と見なされてしまいます。はっきりとうつ症状が出て初めて専門外来受診に至る精神科医療に於ける最も難しいリスキーな診断の一つになっています。外来に於けるこの誤診しやすいリスキーな現状を何とかしたい!特に一般外来を行う先生方のリスクを減らし円滑に精神科外来へと繋げれば患者さんにとっても有益な事となる。そんな思いを持って私が日々の外来の傍ら夜昼なし休日なしの三年の歳月をかけ完成させたのがこのJiテストでした。
 幸いなことに、我がJiテストは皆様もご存知の簡易型うつ状態評価尺度SDS(self-rating depression scale)を外的基準としたROC分析においてSDSに対する優位性が証明されました(心身医学2017年57巻第9号原著論文参照)。またJiテストに利便性をもたせWeb上でもっと使いやすくするためにとアプリ開発を含め私が設立した会社が(株)ジャパンイノベーションです。それ以後のJiテストを使った研究は(医)国際心身医学研究所を通じて日本精神神経学会、日本心身医学会、日本産業精神保健学会、日本産業ストレス学会、日本精神神経科診療所協会など各学会に継続的に発表させていただいております。このように外来患者のうつ病の早期発見、早期治療のために開発されたJiテストでしたが、2015年12月より始まったストレスチェック制度においては高ストレスと判定された産業医面談希望の被検者へのうつ病判定補助ツールとしても利用範囲が広がっていきました。特に精神科医でない産業医の先生方にはうつ病判定補助ツールとしてご好評をいただいております。
 さてここからは今回の本題となります。2019年12月中国武漢で発生したコロナウイルス(正式名称COVID-19、ウイルス名SARS-CoV-2)は瞬く間に世界中を席巻する感染症となりました。2020年2月に入るとコロナは日本に本格的上陸(ダイヤモンドプリンセス号!忘れもしませんよね)そして緊急事態宣言発令、我々の社会生活はコロナウイルスへの恐怖、不安と共にどんどん生き苦しいものへと追い詰められていきました。当時の私はボランティア団体大阪平野RCの会長年度にあたり会員には「コロナウイルスなんぞに負けてはならぬ、我々にできる社会奉仕を!」との荒ぶる気持ちを鼓舞しており、そこでハタと思いついたのが私にできる社会奉仕、コロナうつ病対策としてのJiテストの無償提供でした。5月28日~8月末を無償キャンペーン期間と決めWebサイトでプレスリリース、その後一般の人々に公開しました。その調査解析の一部がこの資料です。(詳細は学会発表でご覧ください)一般人のうつ病罹患の可能性が50%を越える!(学生たちも40%越え!)これは衝撃的な数字でした。平時なら一般人、学生とも10%前後の罹患率のはずでした。その原因として一次的な(直接的な)コロナへの不安、恐怖からのうつ病の発症、2次的な(間接的な)コロナ禍による社会的異常現象(テレワーク、自宅待機、外出制限等)によるうつ病の発症が考えられました。「学生は社会人じゃないし、そこまでは」との甘い考えは調査分析結果の前に脆くも崩れ、大学合格後一度も大学に通えず(Web授業のみ)実家にも帰れない一回生や下宿生の惨状をTwitterで知った驚きは私の胸を詰まらせました。大学からの求めに対し真っ先におこなったアドバイスは対面授業の早期復活でした。コロナウイルスの特徴は風邪症状と突然死、コロナうつ病の特徴は意欲低下が全面に出ること。規制による制限がいつの間にか習慣化しルーティーンとなり、知らない間にうつ病化している。解決には一日も早く日頃のルーティーンワークを取り戻すこと、大量の自殺者を出す前に有効な経済対策(政策では遅い)をとることがコロナ感染対策の中に含まれるべきです。怖い怖いと逃げ惑うのではなくしっかりした感染対策をとりながらコロナ禍で新しい自立した生活を目指すこと。その地域医療のリーダーとなることが我々開業医にむけられた新しい使命なのではないのかと思わずにはいられません。最後に、よく聞かれる感染対策の消毒ですがイオンレス次亜塩素酸水がもっとも有効かなと思います。アルコールのように手荒れがありませんし有効利用には少し研究が必要ですがお薦めです。