外国人医療で最も大切なこと
医)太融寺町谷口医院 院長 谷口 恭
昨今、訪日外国人の医療に伴う様々な問題が多くの場面で指摘されている。それらが大きくなってきているのは確実であり、なんとかしなければならないという思いから「関西の外国人医療を考える会」という会を主催している。過去に3回の集会を開き、2020年2月には第4回を開催する予定だ。集会には毎回50名余りの学生も含めた医療者が参加し、様々な質問意見が飛び交い現場の問題が少なくないことに気づかされる。
外国人医療に伴う問題には、多言語対応、文化の違い、未払い、医療訴訟などに加え、最近ではアジアからの留学生・就労生の結核の問題や、高額医療を目的とした日本の保険証入手の斡旋をするブローカーの問題なども話題になる。経済界からは医療ツーリズムに期待するという声も上がっている。
だが、このように様々な問題があるのは事実だとしても、毎日数人の外国人を診察していて最も問題だと感じるのが「英語を話す患者に対する医療機関の診察拒否」である。誤解を恐れずに言えば、「英語を話す外国人を医療機関が受け入れる」のは世界の“常識”ではないだろうか。最近、中米のある国から訪日した40代女性が言ったセリフを紹介しておこう。「私はこれまで20以上の国で仕事をしてきた。持病があるためどこの国でも医療機関を受診するが、英語が通じないのは日本だけだ。日本渡航前に在住していた中国と韓国でも何の問題もなかった」
我々はこの言葉を真摯に受け止めるべきだろう。おそらく、英語を話して診療拒否される国というのは日本以外に存在しない(北朝鮮は不明だが)。この女性は当院にたどりつくまでに4軒の医療機関を受診していた。
ここでひとつの疑問がでてくる。この女性がその4軒の医療機関を受診したのは「英語対応してくれる」と聞いていたからなのだ。では、なぜ継続受診できなかったのか。それは「受付の対応」である。医師が英語を話したとしてもそれは診察室の中だけであり、受付や会計業務は他のスタッフの仕事だ。そして電話をとるのも受付である。もしも予約日の当日に何かアクシデントがあり急きょ受診できなくなった場合はどうすればいいのか。あるいは処方された薬を飲んで薬疹が出た(かもしれない)時、患者はどこに電話すればいいのか。つまり「英語で外国人を診る」ということは「診察のみならず看護業務も受付業務も電話も英語で対応する」ということを前提としなければならない。これができなければ患者が不安になるのは自明であり、件の中米人女性は(医師はともかく)他のスタッフが英語を使わない(初めからコミュニケーションを取ろうとしない)ことに幻滅したのである。
11月9日 看護師勉強会に参加されたスタッフ
(上段右より3人目が谷口医師)
さて、ここまで読まれた方は「そんなことを言われても、看護師と受付を英語ができる者に入れ替えるなんてことできるはずがない」と思われたに違いない。しかし、できることはあるのだ。まず患者がやって来てしまえば、ポケトーク、Voice Tra、Google翻訳などを駆使すれば、それなりのコミュニケーションが取れる。我々の経験上、ほとんどの患者は、必死にコミュニケーションを取ろうとするその姿に好感を持ってくれる(例外もあるが)。どうしてもというときだけ医師が介入すればよいのである。もちろん医師とて万能ではなかろうが、英語に関して言えば筆談をすれば時間はかかるがコミュニケーションがとれないことはないだろう。英語が通じないときは電話通訳を使えばよい。当院では「母国語を話すことしかできず読み書きができない(Google翻訳が使えない)」というネパール人患者が受診したときに使用した経験がある。
もうひとつ推薦したいのは「勉強会」である。当院では月に一度、主に看護師を対象とした勉強会を開いており外部の看護師や薬剤師、学生なども歓迎している。勉強会はわずか1時間だが英語のコーナーも設けている。そのような試みを院内で広げてもいいし、興味をお持ちの方がおられれば当院の勉強会への参加も検討されたい。また、当院では外国人患者からのメール相談を初診、再診にかかわらず受け付けている。そして、患者への返信メールのほとんどをBCCでスタッフ全員に送っている。これにより当院のスタッフはほぼ毎日英文メールに触れることになり、幸いなことに当院に入職してから英語に興味を持ち勉強を開始した職員もいる。
外国人医療には様々な問題が存在するのは事実だが、スタッフ全員が英語を使う努力をすることで多くの問題が解決するのは間違いない。ちなみに当院を受診する母国語が英語でない外国人の99%はある程度の英語(か日本語)を話している。
「関西の外国人医療を考える会」ホームページ
http://www.stellamate-clinic.org/kansaiforeigner_/
英語による問診票
(「太融寺町谷口医院」ホームページで掲載されています)