卒後10年目で父から継承した開業医にできること
私は昨年7月に生野区にある葛西医院を父より継承し、院長を務めさせて頂いております。葛西医院は祖父が昭和28年に開業し、私で3代目で今年で開業66年目となります。かなりレトロな雰囲気ですが、地域に溶け込みながら地域の患者さんのために日々奮闘しております。
私は帝京大学を平成21年に卒業後、地元大阪に戻り大阪市大病院で研修しました。研修を開始して約半年経過した時に父が脳出血に倒れ、閉院の危機が突然訪れました。当時研修先の総合診療センターの先生方の支援のもと、2か月間必死になって葛西医院で地域医療に従事しました。その後数か月の休診を経て、幸い父も診療に復帰することができましたが、その目まぐるしい2か月間で私は地域医療の醍醐味と奥深さに触れ、必ず将来地域医療に従事しようと考えるに至りました。
その後大阪市大病院で総合診療という道に進み、大学院卒業、学位取得、総合診療医としての専門医である家庭医療専門医の取得などを経て昨年継承し、今は父と二人三脚で診療しております。
研修医修了後から継承まで週1~2回外来を手伝っておりましたが、継承していざ院長として診療してみると、今まで見えていた景色と全く違うものでした。患者さん一人ひとりに対する責任感、他の医療機関との連携、医院を経営していくという視点、従業員の生活を支える感覚など、やってみると予想以上の重責で、開業医の先生方の御辛労にただただ敬服するばかりです。
とはいえ、医師10年目という若さで継承したからこそできる地域医療への貢献の仕方があると考え、「在宅診療」、「医学教育」、「多職種連携」に力を入れて取り組んでいます。
在宅診療を始めるにあたり、全国20近くの病院・診療所医師やケアマネジャー・ヘルパーの見学に行き、何が患者さんにとって良い診療なのかを学びました。通院困難な患者さんの自宅でゆっくりと話を聞きながら診察していると、患者さんや家族に心から喜んで頂けていると実感しています。在宅診療を始めて1年が経過した現在は月50名ほどの居宅患者さんを診療し、18名の看取りをいたしました。また他職種との連携を充実させることが重要だと思い、当院ではどの事業所にも簡単な無料連携ツール(※)を使用して頂き、効率的な情報共有を行っています。それによって当院を含めた各事業所の負担が減り、患者さんへの対応が早くなるため、患者さんや各事業所へのメリットになっていると感じています。そのノウハウをお知りになりたい先生がいらっしゃいましたら、小生までご連絡頂けますと幸いです。
「医学教育」、「多職種連携」の取り組みについてもいつかお伝えできればと思いますが、文字数の都合で今回は割愛させて頂きます。多くの先輩方の背中を見ながら、今後も地域医療のより良い未来のために、微力ですが力を尽くしていきたいと思います。
※無料連携ツール「Medical care station」でインターネット検索ができます。