「慢性便秘症」に対する治療―新しい薬をどのように使うか―

社会医療法人健生会土庫病院名誉理事長 大腸肛門病センター顧問
稲次直樹

 便秘とは:「慢性便秘症診療ガイドライン」では、便秘の定義を“本来体外に排出すべき糞便を十分量、かつ快適に排出出来ない状態”とし、便秘症の定義を“便秘による症状が現れ、検査や治療を必要とする場合”とし、その症状としては排便回数によるもの、硬便によるもの、便排出障害によるものがある、としている。そして、慢性便秘を原因から器質性・機能性に、症状から排便回数減少型・排便困難型に、病態から大腸通過正常型・大腸通過遅延型・便排出障害に分類している。

 従来の便秘症に対する治療:“糞便を十分量、かつ快適に排出出来ない状態”を改善することである。米国消化器病学会の便秘症診療ガイドラインでは生活習慣指導と塩類下剤の投与が基本とされており、必要時のみ刺激性下剤を併用することを推奨している。本邦においてもこれまでは酸化マグネシウムなどの塩類下剤とセンノシドなどの刺激性下剤が主に処方されてきた。
 では、その効果はどうか。三輪洋人氏らの全国調査の成績では正常便の状態になったとするものは38%で、中島淳氏は治療されている患者の半数以上が満足する排便になっていないと報告し、今一度、患者の満足度を把握する必要性を強調している。また刺激性下剤の長期投与で大腸黒皮症や耐性が出ている患者や塩類下剤を高マグネシウム血症のリスクのある腎機能低下患者に容易に投与、薬剤吸収低下が危惧されるビホスホネート製剤服用患者への投与、など不適切な治療例も少なくないと述べている。
 新しい薬は2012年に発売されたルビプロストン(アミティーザ)を皮切りにエロビキシバット(グーフィス)、リナクロチド(リンゼス)、ポリエチレングリコール(モビコール配合内用剤)などが保険収載されている。以下にこれらの薬剤の特徴を示す。

●ルビプロストン(アミティーザ):粘膜上皮機能変容薬の一つである。機能性脂肪酸化物で小腸粘膜上皮のCIC-2クロライドチャンネルを活性化し、小腸腸管内腔へのクロライド輸送により浸透圧を生じさせ、腸管内腔への水分分泌を促進することにより便を軟らかくし、腸管内の便輸送を高めることで排便を促し、自発的排便の改善に有用とされている。ルビプロストンは小腸通過時間の改善がみられ、血清中の電解質には影響を与えないとされている。高齢者の重症便秘への有効性が高い。副作用として悪心・下痢が、また、妊婦・妊娠の可能性のある女性に対しては投与禁忌である。

●エロビキシバット(グーフィス):回腸末端部の上皮細胞にある胆汁酸トランスポーターを阻害し、胆汁酸の再吸収を抑制することにより大腸管腔内に流入する胆汁酸量を増やす。増加した胆汁酸は消化管運動を促進し、大腸内で水分を腸管内に分泌させ、直腸においては進展刺激に対して知覚閾値を低下させ便意発現効果をもたらす、などにより便秘を改善するとされている。主な副作用は腹痛・下痢であった。

●リナクロチド(リンゼス):小腸粘膜上皮のグアニル酸シクラーゼC受容体アゴニストで、グアニル酸シクラーゼC受容体の刺激を介して腸管上皮細胞のcGMP量を増加させ、これにより消化管知覚過敏を改善、腸管への水分分泌促進作用により自発排便と腹痛の有意な改善が得られ、便秘型過敏性腸症に有効とされている。副作用としては下痢が最も多く報告されている。

●ポリエチレングリコール(モビコール配合内用剤):浸透圧の差を利用して便中水分量が増加することで便が軟化し便容責が増大して大腸を刺激し、蠕動運動が活発になって排便が促される。塩類下剤と異なり電解質異常を引き起こすことなく、体内にも吸収されないため安全性が高いとされている。
 新しい薬をどう使うか。「慢性便秘症」未治療患者への治療においてはまず問診で便秘の状態を排便回数・ブリストル便形状スケールを用いて便の形状・腹痛の有無などをしっかり把握することが重要である。薬剤の選択には作用が穏やかな塩類下剤や刺激性下剤の頓服、などから始め、徐々に増量、あるいは強い薬に切り替えていく。“どの薬があなたに合うか誰も分からない。時間をかけてあなたに合う薬を一緒に探しましょう”と説明し、投与を開始する。次回受診まで“便秘ノート”に排便状態・満足感などを記載して頂き再診時にチェックするようにしている。既治療患者への治療においては満足感が得られない理由をしっかり把握することが重要である。これらの患者に対してはルビプロストンやエロビキシバット、リナクロチドなどが処方される。これらの薬剤は治療効果出現が早いので一日容量の半分から処方を開始し、2週間毎に受診、経過を観察し効果不十分な場合は徐々に増量していく。増量にて腹痛や下痢などの症状が出る場合は既治療薬を徐々に減らし、新しい薬に切り替えて行くことで満足感を維持していくのが良いと考える。慢性便秘症の治療は長期に渡ることが多い。治療中の腫瘍性病変の精査は定期的に施行することが必須である。

【参考文献】
日本消化器病学会関連研究会,慢性便秘の診断・治療研究会編:慢性便秘症診療ガイドライン.南江堂,東京,2017
鳥居明:特集・慢性便秘 薬物治療全般.臨床消化器内科 33:399-404,2018
岡政志:特集・慢性便秘 上皮機能変容薬.臨床消化器内科 33:405-410,2018
中島淳:その便秘薬処方,間違っていませんか.NIKKEI MEDICAL 12-14:2018.10