受動喫煙対策の流れと新型タバコ製品への対応〈第2回〉
堺市立総合医療センター 呼吸器疾患センター
センター長 郷間厳
新型タバコ・加熱式タバコとは、なんなのか。どう対応すれば良いのか。
従来の紙巻タバコに代わる製品として、日本でも先に広まりかけたものは、電子タバコというものでした。電子タバコとは、電池を内蔵し、液体を加熱してそれを吸引する仕組みのものです。「リキッド」と一般に呼ばれる液体にいろいろなフレーバーがあって、それを吸引するというものなのですが、日本では海外ほど広まっていませんでした。海外ではニコチンを含むリキッドを使用可能であることが日本との大きな違いであり、海外ではタバコ代用品として普及しています。米国では10代の使用が増加しており、電子タバコから紙巻タバコの併用へと進むタバコ導入製品ともなっていることが社会問題になりつつあります。わが国では、ニコチンを含むリキッドは医薬品医療機器法によって規制される対象のため、健康影響を調べて厚生労働省の承認を受ける必要があることから、ニコチンを含まないリキッドのみが許されていることが特徴であり、広がりが今ひとつである理由と考えられます。しかしながら、海外からの輸入や知人間の譲渡などで、ニコチンを含むリキッドを一部の人は手に入れて使用されていて、患者の使用例も経験しています。また若者が好むようなフルーツフレーバーのリキッドの使用で紙巻タバコには含まれない有害物質の吸入が生じているという新たな問題も明らかになりました。輸入品のリキッドを外国語の記載のためニコチンが含まれていることを知らないまま使っていることもあるため、患者が電子タバコにしているという話を聞いた時には、使用中の電子タバコ製品やリキッドがどのようなものか、直接手にとって確認することが良いと思います。
幸いにもニコチン入りのリキッドは容易に手に入れられる状況ではないため、電子タバコへの切り替えをすることも多くなかったのですが、そのようなわが国に次に登場したものが加熱式タバコでした。英語ではHeat-not-burn tobacco(加熱式非燃焼タバコ)と言われ、フィリップモリスジャパンの「アイコス」が先陣を切って投入され、急速に使用者が増えました。ついで、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパンの「グロー」が登場し、これもコンビニエンスストアで品切れになるほどの人気です。上記2つは、どちらも紙巻きタバコと同様のタバコ葉を加工したスティック状のものを加熱して出て来たタバコ成分や含まれるなんらかの添加物を吸います。「アイコス」では金属性の刃状の部品にスティックを挿入した状態で約350度に加熱するとされています。「グロー」は、スティックが挿入された筒が周囲から約240度に加熱します。日本たばこ産業の「プルーム・テック」は、これらと少し異なり、専用の液体(低温で気化する有機溶剤)を熱してそこから生じたエアロゾルにより吸い口に近いところに位置するタバコ葉などの粉末が入ったカプセルを吸引時に通過させて約30度に温めて吸入する仕組みです。いずれもタバコ葉そのものが燃焼する温度にはなっていないため、紙巻きタバコのような目に見える煙はほとんど出ません。しかし、ニコチンは紙巻タバコの代わりになるだけ豊富に含んでおり、目に見えない微粒子の有害物質を吸い込んでいることが分かっています。わが国で電子タバコは規制されていましたが、タバコ葉を用いているこれらの製品は、たばこ事業法の対象のため、既存のタバコと同様に健康被害があろうが販売できるという法解釈なのです。
普及度は、アイコスがタバコ製品全体において15%を超えるにまで増えていて、最近(2018年5月)、利用者が500万人を突破したと宣伝されました。急速な普及の背景は、ニコチンが十分含まれているために切り替えやすいことが考えられますが、同時に、先に述べたような受動喫煙に対する遠慮があることも推測されます。そのような流れでニコチンを含んでいない電子タバコの使用もここにきて増加傾向のようです。ある電子タバコ製品は、プルームテックのタバコカプセルを繋いで吸えるようにしているものがありますし、アイコスのスティックを使用できる互換性のある吸引装置もいくつか発売されており、オリジナルの製品よりも長く吸えるなど優位性を訴えており、タバコ使用者の切り替えや併用の需要を喚起しているように思われます。
先ほど述べたように電子タバコが普及している国では、低年齢層への導入製品の役割を果たすことで新規喫煙者の増加が生じており、わが国でも使い捨て製品が1,000円を切る価格で手に入るため、未成年者の使用開始の増加が心配されます。また、加熱式タバコが禁煙補助に役立つかどうかを調査した国立がん研究センターのインターネット調査では、禁煙に取り組んだ中(男女798人)で新型タバコ使用群は非使用者に比べて成功率のオッズ比が0.63(95%信頼区間:0.41-0.95)となり、新型タバコ使用群で禁煙成功率が有意に低いという結果が出ています。新型タバコを経由して禁煙成功の個別事例もありますが、一般的には勧められないと言えるでしょう。
しかしながら、新型タバコ使用者は多くの場合、タバコは吸いたいが、周りを気にして、煙や匂いの少ないものを選んでいるわけです。販売するタバコ会社が喧伝することは、有害物質が大幅に減っている、だから喫煙者にも周囲にも影響が小さいということです。タバコよりも身体に良いと言わんばかりです。タバコ会社の話をよく読むと、既存の紙巻きタバコの燃焼が有害物質を大量に発生していたことを認めることも意味しているのですから、興味深いと感じられると思います。そして、今、本当に害が少ないのかという問題と「新たな受動喫煙」と言える問題も生じて来ました。最近の研究により、ニコチンの発生量は、紙巻きタバコよりも多い可能性、有害物質は成分によっては紙巻きタバコと同等かそれ以上のものもあること、紙巻きタバコと同様の有害事象(急性好酸球性肺炎の発症の例)も確認されていることなどが明確になりつつあります。ヒトの長期使用による新型タバコ特有で未知の影響も否定できません。何より地球上の加熱式タバコのほとんどが日本で消費されていることは、日本で大規模人体実験を倫理的な議論なく実施されている危険な状態と筆者は考えています。
日本呼吸器学会では、見解を2017年10月に公表しました(表1)。
そのような中で、飲食店の一部に禁煙だが加熱式は吸っても良いなどとするところも出現しており、非喫煙者の知らないうちに受動喫煙の害を受ける恐れも大きい心配が出て来ました。
私ども医療関係者の立場としては、加熱式タバコの特徴をよく知り、電子タバコとの違いも踏まえて、それらのタバコ製品も含めて、非喫煙者が受動喫煙を受けない政策が望まれます。また、未成年者が受動喫煙を受けず、新規に喫煙を開始しない社会的な啓発が重要と考えます。
喫煙歴の問診時にタバコだけ尋ねるともう吸っていないとだけ返事されるものの、新型タバコは?と明示するとずっと吸っているという人も珍しくありません。アイコスなどもやめられない状態はニコチン依存症が続いているため、そのことについて患者との対話が重要です。今後の日常診療にあたっては、新型タバコの使用状況も必ず確認しながら、ニコチン依存からの離脱を指導できるようにする方略が重要と考えます。
(この連載は今回で終了です)