受動喫煙対策の流れと新型タバコ製品への対応〈第1回〉

堺市立総合医療センター 呼吸器疾患センター
センター長 郷間厳

受動喫煙を推進する動きはどこから来ているのか

 東京オリンピック・パラリンピックの開催される2020年に向けて、またその前年にはラグビーのワールカップが我が国で開催されるので、それまでに、国内の受動喫煙対策を進める必要性が切迫してきたと言われています。なぜ、受動喫煙対策が必要なのでしょうか、また、なぜ今、求められているのでしょうか。

 受動喫煙の害は、すでに多くのエビデンスがあり、急性心筋梗塞、肺がん、小児の喘息様気管支炎・中耳炎など明確にリスクの増加が報告されているものが多数あります。ただ疾病が増えるだけではありません。世界保健機構(WHO)の2017年の発表では、全世界での能動喫煙による超過死亡は700万人である一方、受動喫煙による死亡は89万人もいるのが現実です。我が国の年間の超過死亡は、能動喫煙で12万8,900人、受動喫煙で1万5,000人と推算されました。能動喫煙は、喫煙者自身の問題の範囲かもしれませんが、受動喫煙に対して、好んで積極的にその環境にいる非喫煙者はほぼいないでしょう。もちろん喫煙者を減らすことが非常に重要ですが、その前に非喫煙者の健康被害をなくすことが喫緊の課題になってきているのです。そして有効な対策のためには、適切な政策が必須であると明らかになっているのです。

 タバコの規制については、「タバコの規制に関する世界保健機関枠組条約」(WHO Framework Convention on Tobacco Control:WHO FCTC.以下FCTC)という2005年2月に発効した国際条約があり、日本も批准しています。それにも関わらず、国内では、なお未だにFCTCの知名度も低いままです。FCTCの前提は、タバコ製品が公衆の健康に深刻な影響を及ぼす問題になっていることの共有にあり、その目的は「タバコの消費と受動喫煙によってもたらされる健康・社会・環境・経済の破壊から現在と未来の世代をまもること」です。すなわち、タバコそのものの需要を減らすことを目標にしています。FCTCの重要な条文を表に示します(表1)。

 具体的な内容は、外務省のウェブページに翻訳があるのでぜひご一読いただければと思います。タバコ消費の規制を第一に考えられていますが、同時にタバコ農家や販売業の転業支援の重要性も示されています。米国でも同様の取り組みがされていますが、注意していただきたい点として、米国はFCTCを批准していません。何れにしても対策のためには、具体的に立法化していく必要がありますが、受動喫煙防止法をはじめとした日本の大幅な遅れが国際的にも指摘されているのです。各国のタバコ規制の取り組みの評価がWHOによりほぼ毎年されていますが、それを見ても2017年時点の我が国の対策が著しく遅れています(図1)。

 私たち医師の責務として、健康において現在と未来の世代を守ることが重要です。その立場からFCTCを理解することが重要と思います。そして、タバコ減少の施策を推進するよう行動することは医師の責務であると考えます。我が国の喫煙率は男性30.1%、女性7.9%(2015年)と低下してきたものの、男性では、2010年以降は減少がゆるやかになっており、女性では、50代は増加傾向です。また、「アイコス」などの新型タバコ製品の出現は、今後の喫煙率の低下をさらに抑える恐れもでてきました。対策の遅れているうちに新たな課題が降りかかってしまったのが我が国特有の問題になっています。
(次回は加熱式タバコへの対応について解説します)