小児循環器疾患と学校保健〈第ニ回〉
さのこどもクリニック(福島区)
院長 佐野 哲也
学校現場でよくみる循環器疾患
Ⅱ.不整脈
学校心臓検診で不整脈が発見されることは珍しくない。心室期外収縮と上室期外収縮は頻度の高い不整脈であるが、軽症では成長と共に改善・消失することが稀ではない。WPW症候群はデルタ波とPR短縮を心電図の特徴とし、頻脈発作を起こすことがある不整脈である。現在では、頻脈発作に対して高周波カテーテルアブレーションと呼ばれるカテーテル治療でほぼ根治できるようになった。QT延長症候群は、失神や突然死を起こすことがある遺伝性不整脈疾患で、頻度は1万人に1人程度である。心電図上QT延長と倒錯型心室頻拍を特徴とする。近年遺伝子診断で突然死のリスクを予測できるようになり、学校心臓検診での重要性が高まっている。ブルガダ症候群は最近明らかになってきた不整脈で、ST上昇やT波異常の心電図所見の特徴とする。小児の頻度は約1万人に1人程度とされ、成人と違い心室不整脈の報告は少ない。
Ⅲ.川崎病
川崎病は年々増加し、2005年以降は毎年10000人以上の新規患者が発生している。約13%の患者に冠動脈瘤形成を中心とする心臓後遺症が発生する。中等度以上の冠動脈瘤では正常化しない場合があり、重症冠動脈瘤症例では冠動脈瘤の血栓閉塞や冠動脈狭窄を起こして虚血性心疾患へ進行する。このような重症例では冠動脈血栓溶解療法や冠動脈バイパス手術、さらに重症心筋梗塞後では心臓移植の適応となる。リウマチ性心疾患がみられなくなった現在、学校において川崎病による心臓後遺症が後天性心疾患の中心となっている。
学校現場での川崎病既往児の対応は冠動脈後遺症の程度により全く異なる。心臓後遺症を残す児童・生徒は、専門医療機関で精密検査(心エコー,負荷心電図,心筋シンチグラム,心臓カテーテル検査など)を定期的に行い、その結果判定された心臓管理指導表の管理区分に従って適切な運動制限を行う。一方冠動脈病変がないか、一過性の軽度病変の場合は、生活運動面での制限は不要である。
Ⅳ.心筋症
心筋症には、心筋が著しく肥大する肥大型心筋症、心筋が薄くなり心室収縮力が低下する拡張型心筋症、心筋の硬化が進行する拘束型心筋症に分類される。成人に多い心疾患であるが、乳幼児期に発症する心筋症もある。中学、高校と学年が進むに従って発生は増加する。重症不整脈を合併する場合は失神や突然死の原因となる。βブロッカーで改善する場合もあるが、進行する場合が多く最終的には心臓移植の適応となる。
心疾患児童の安全な運動・生活管理
循環器疾患をもつ就学児童の学校での対応の中で適切な運動指導は重要である。循環器疾患の一部には失神や突然死の危険性がある。就学児童の突然死の2/3が運動に関係し、突然死の40~50%が基礎心疾患を有していたとされる。特に運動によって病態が悪化する可能性のある心疾患児童の運動は、循環器専門医の管理指導にそって慎重に行う必要がある。この様な心疾患には心不全・肺高血圧・不整脈の合併している心筋症、大動脈狭窄、先天性心疾患術後などである。不整脈ではQT延長症候群、カテコラミン感受性多形性心室頻拍、特発性心室細動などがあげられる。一方以前は危険性のない軽症心疾患でも一律に運動を禁止するということが珍しくなかった。運動は子どもの身体発育や精神発達に不可欠で、最近では運動が心疾患そのものや患者のQOL(生活の質)を改善することが明らかになっている。従って本当に必要な児童に適切な運動制限を行うことが重要である。また運動制限が必要な学童に対しても単純に運動を禁止するのではなく、患児の心肺機能や合併症のリスクに応じて、参加できるスポーツや個々の運動内容を考えることが大切である。きめ細かい運動管理指導には、本人家族と学校関係者ならびに学校医や主治医を含む医療関係者など、心疾患児童と関係するすべての人々の間の密接なコミュニケーションが不可欠である。