下肢静脈瘤の最新治療血管内焼灼術について

ハルカス川崎クリニック
院長 川崎 寛

 脚のお悩みを抱える患者様は非常に多く、その症状は、つかれる、重い、むくむ、痛い、痒い、色素沈着、ほてる、足が冷たい、こむら返りが増えた等様々です。静脈がボコボコしていない方でも、こういった症状でお悩みの患者様は、下肢静脈瘤かもしれません。
 まず、下肢静脈瘤からどのようなキーワードを連想されるでしょうか? 脚の静脈がボコボコとこぶになる、高齢女性に多い、妊娠を契機に悪化、生命の危機はない病気、ストッキングで経過観察等々、連想されると思います。しかし、初診でこられる患者様の病状は多様で、ときにこのようなイメージから離れます。例えば、20歳前半の若年男性で両脚に立派な?! 静脈瘤がとぐろを巻いている方もいます。10代後半から飲食業の調理場に勤務している彼の職歴が、静脈瘤を悪化させたようです。看護師・介護士等の医療福祉関係者で市販の着圧ストッキングを使用されている場合、外見上静脈瘤は軽度ですが、症状に悩む方々が多くおられます。つまり、長時間の立ち仕事・座り仕事をされるすべての職種の方々に起こり、性別・年齢よりも職歴の影響を強く認める印象を持ちます。
 弁構造が破綻し逆流が始まると、病状の増悪は不可逆性であり、散歩励行・医療用弾性ストッキングの使用で一時的に症状の改善を認め、病状増悪の進行速度は緩徐になりますが、静脈瘤が治癒することはありません。根本的には、内服してよくなる薬や、やってよくなる運動はありません。
 下肢静脈瘤に対する治療戦略が変化してきております。従来からの硬化療法やストリッピング手術に加え、レーザーや高周波による血管内焼灼術が保険適用され、治療戦略の選択肢が拡大しました。現状では、症例ごとにその病状を正確に把握し、その病状に適した治療を選択することが非常に大切です。下肢静脈瘤の原因について、現在では、表在静脈である大/小伏在静脈や穿通枝に存在する弁構造の破綻により、深部静脈から表在静脈への血液逆流が起こり、下肢に静脈血がうっ滞することが主な原因と考えられております。この原因が明らかになるまで、検査方法・治療方針・手術術式が変遷してきました。
 エコーで弁不全による著明な逆流を認める場合、ストリッピング手術や血管内焼灼術の手術適応と判断されます。
 ストリッピング手術は、全身麻酔・下半身麻酔下に施行され、3日~1週間程度の入院が必要なことが多く、手術後に著明な疼痛や腫脹が持続することがあります。
 レーザーによる血管内焼灼術では、局所麻酔下に施行され、手術後30分程度の経過観察後に歩いてご帰宅いただく日帰り手術が可能になりました。2011年に保険適用された第一世代(波長980nm)のレーザーでは、ファイバー先端からレーザーが1方向にしか照射されなかったため、焼灼にムラができ血管を穿破すれば広範囲の皮下出血を認めました。2014年に保険適用になった第二世代(波長 1470nm)では、レーザーが同心円状に2か所から照射されるように改善され、焼灼のムラがなくなりました。これにより、手術後の疼痛や皮下出血が格段に減少しました。
 高周波による血管内焼灼術も2014年に保険適用となりました。局所麻酔下に施行でき日帰り手術が可能です。カテーテルの先端7cmに電熱線があり、これを加熱することで静脈を内部から焼灼します。第二世代レーザーと高周波では、両者とも、手術後の疼痛や皮下出血の発生等に関して良好な成績を認めます。欧米での手術症例数は多く、実績のある手術方法です。しかし、両者ともすべての症例に適応できる訳ではありません。
 従来の硬化療法は、弁不全による著明な逆流を認める場合、必ず静脈瘤の再発や症状の再燃を起こします。高位結紮は、穿通枝逆流に対しては無効です。このように各々の治療方法の長所短所を理解し、これらを有効に組み合わせることが、治療戦略として重要になってきました。
 静脈疾患は個人差が非常に大きく、エコーでの詳細な病状把握と的確な治療戦略を必要とします。これを怠ると症状の改善を認めず、静脈瘤の再発や症状の再燃が起こり、患者様を再度悩ませる結果になります。
 保険適用がなされるまでは、1系統30~40万円かかる自費診療でしたが、保険適用後は、1~5万円(保険負担率により変動)になりました。進歩した手術術式を経済的負担が少なく受けられるようになったことは、下肢静脈瘤による脚のお悩みをお持ちの患者様に大きな朗報といえます。今までのように生死に関わらない疾患だから放置してもよいと説明し、目をつぶるのではなく、静脈瘤治療の現状をご理解いただき、経過観察でよいのか手術適応があるのかを正確に判断するため、専門医にご相談いただけましたら幸甚です。高齢化社会を迎え、増加する医療費を抑制するためにも、患者様の高いQOLを維持する基本は「歩くこと」であると考えます。歩行を障害する血管疾患は、動脈硬化による閉塞性動脈硬化症や壊疽だけでなく、下肢静脈瘤が悪化すれば、易疲労感のため患者様は歩行意欲を失います。我々は、静脈瘤の治療を通じ、患者様が歩けて、「健康で長生きする」ことの一助となりたいと考えます。

[勤務医ニュースNo. 122:2015年1月5・15日合併号に掲載]