後編 過労死弁護団全国連絡会議代表幹事 松丸 正弁護士との交流会(2/23)
あたりまえでない労働環境を見直そう―医師の過労死の現状と労働法規
弁護士

- 松丸 正
- 略 歴
- 1946年生まれ
東京大学経済学部卒
過労死弁護団全国連絡会議代表幹事(現)
株主オンブズマン事務局長(現)
現在4件の医師の過労死に関する事件を担当
前編では、大多数の勤務医の過重労働が過労死の認定基準を超えていることが松丸弁護士より報告され、認定基準も裁判事例を重ねるごとに遺族や弁護士の力で改善されていっていることがわかりました。後編では、これ以上過労死を増やさぬよう、勤務医の労働環境を整備していくうえで労働基準法、三六協定とは何か、その問題点と展望を6人の方々に語っていただきました。
当直は業務時間と認めるべき
川ア 勤務医の長時間労働の大きな原因に当直がありますが、業務時間と認めるべきでしょう。
原田 当直業務についてですが、府内のある市民病院の小児科で患者を診て、さらに2次救急を行い、24時間勤務しているので、2交代制、3交代制にして欲しいと要望を出したのですが、当直だからと認めませんでした。しかし、実際にはひっきりなしに患者が来るので、救急をすることが業務なのです。当直時間帯に救急患者を診ることは超過勤務であるにも関わらず、それを認めないで、朝9時から来て5時まで日勤をし、それから当直で救急をするようにと、それが通常の業務だと言われたそうです。その結果、医師は過労でどんどん倒れていく状態です。しかし、市はこれを認めません。これは明らかにおかしいと思います。
川ア 神戸中央市民病院は2交代にしました。当直を業務時間と認めましたね。
原田 救急をやると表に出して、患者を診るのは当直ではなく超勤です。
松丸弁護士 それを監視断続労働の許可、宿直の許可という形で勤務時間としてカウントしないのはおかしいのです。
松本 現実は、今言われたことがそのとおりで、市の労働時間は法的におかしいです。明らかに労基法を守っていない中で勤務がやられていると思います。私の病院で当直明けを休ませるだけでも、2割から3割の医師を増やさないと今の救急を維持するのは不可能です。看護師さんと同じように三交代制にしようと思うと、もっと医師を増やさないと今の医療は維持できないですね。その矛盾をどう解決するかというのが問題です。低医療費政策でずっときているのが一番の原因ですが、でもすぐには医者が増えない。厚労省は、医師の労働基準を厳しくやっていくと言いますが、恐らく救急医療が成り立たないことは十分わかっていると思います。しかし、現実に医師の労働条件が守られていないことを放置するわけにはいきません。どういうふうに改善していくのか。運動をどう作っていくのか。非常に悩ましい問題です。私は、一方で過労死の問題に取り組みながら、一方で院長ですので管理する側です。両方の矛盾は大体分かっています。三六協定を守ったり、夜の勤務を三交代にすることについて、一定の案を作って、理事長に相談をしたこともあります。現実は不可能だというのが理事長としての正直な立場です。実際にそういう状況になる中で、何らかの形で声を上げて、そこを突き崩していかないと改善しないというのが事実です。
労働者の医療費の低さが国際競争力の源に
松丸弁護士 日本の公的医療が安いということが、日本の産業の国際競争力の大きな源泉になっていると思います。ですから、本来だったら医療にもっとしっかりと予算が付いて、勤務医の勤務条件も当たり前のものになってしかるべきなのです。しかし、それがずっと何も改善されないまま、今や限界のところにきている。その破断が生じようとしている感じがするのです。
原田 トヨタとGMとフォードの違いはどこかというと、車1台に対する従業員にかかる医療コストです。車を1台作るのに、GMは医療費負担が1,500ドルくらいかかっているそうです。しかし、トヨタは低医療費のおかげで少ないそうです。ですから、トヨタがGMやフォードに勝ったのは、車の品質もあるかもしれないけれど、医療費負担が安いことも理由の1つだと思います。アメリカでは、ある一定の年代になったら社会活動しようとか、医療に寄付をしたりします。日本の戦前のお金持ちもそういうことをしています。でも、戦後のトヨタなどは企業病院以外に医療へお金を出した話を聞いたことがないです。

- 川ア 美榮子氏
保険医協会副理事長

- 鶴田 一郎氏
勤務医部部長

- 松本 久氏
耳原総合病院院長
弁護士の初任給は上がって来たのに
松丸弁護士 今、『朝日新聞』が救急医療の特集をしています。『毎日新聞』も以前やっていたし、マスコミの側もずっと注目しています。しかし、この問題について本当に改善しようと思えば、医師の側がもっと大きい声を上げないといけませんね。勤務医の勤務実態は世間で言われるそれとは全然違うということをみんな知らないです。給料も高いと思っていたら、救命救急センターの勤務医の給料明細を見てびっくりしました。私が弁護士になった当時、ある病院のお医者さんの給料と比べたら、お医者さんは2倍でした。今はお医者さんの方が低くなっていると思います。今、弁護士の初任給は約40万円です。お医者さんはいくらですか。
松本 研修を終えた人で、30万円台です。研修医は1年目・2年目で20万円台が多いです。3年目以降で30万円台です。私のジレンマを話すと、根本は低医療費だと思っています。腹が立つのは、道路特定財源で5兆9千億円毎年やっていくわけです。GDP1%というのは5兆1千億円です。5兆1千億円あると、今医者が14万人不足していると言っていますが、医者を14万人雇って、さらに看護師を70万人雇えます。それだけの額が道路特定財源の5兆9千億円です。お金がないわけではなくて、使い道です。GDPを1%増やすだけで、それだけの人材が雇えるわけです。2%上げたら、もっといろんないいことができます。それが今の日本の水準です。そういうことを前提にして、勤務医が自分たちの労働実態が大変だと声を上げることは非常に大事です。
日本の病院の最大の問題は「過少投資」
危惧しているのはこうしている間にも、実際に現場が回らなくなる事態が増え、救急医療や医療の大変な状況がもっと加速されるだろうというのが1つあります。
もう1つは、多くの病院がつぶれると思います。医師を休ませるために業務量を減らしたら、つまり、夜働いた医師を次の日に休ませるために次の日の診療を縮小したら、形としては可能ですが、今抱えている医師以外の職員も含めた人材をすぐに退職してもらうことはできないので、その人たちを抱えたままやっていくのは不可能です。ですから、多くの病院は倒産します。そのことを含めて、医療費をGDP比で1%上げてもいい、2%上げてもいいという国民的合意を一方で作ることなしに、うまくいくのだろうかというジレンマを持っています。
ですから、医師の勤務時間を実際に減らしていくことと、医療を受ける側である国民に及ぼす影響、アクセスできない医療を受けられない被害をどう食い止めるのかということと、病院が倒産することをどう食い止めるのかということ、この3つをやっていくにはどうしたらいいのかと考えています。
原田 日本の病院の最大の問題は、過少投資です。ほとんど公的なものが投資されていません。道路を作るのはインフラですが、日本の病院の場合、私立が多くインフラは自分たちの努力でできているので、公的なものでできているわけではありません。今よりも人数を増やさずにやろうとすれば、集中しないといけないし、今ある病院を縮小する補償も必要で、それをやろうとしたら政策的に投資をしないといけないけれど、それが一切考えられていません。
イギリスは、サッチャーのときに医療費を削ってガタガタになって、ブレアのときに「第三の道」と言ってかなり医療に投資しました。それで集中化しましたが、日本の現状を見るとそういうことが全く考えられていません。
松丸弁護士 6月には日本医師連盟を作ろうという動きが出ていますね。どういう運動体になるのか分かりませんが、将来的には労働組合も射程に入れて考えているようです。やはり、そういう運動は、プロ野球連盟と同じように、プロフェッショナルな医師として医療をやるためにはどうしても自分たちの勤務環境をこうしなければいけないと主張する横断的な団体は絶対に必要だと思います。そういう時期に間違いなくきていると思います。

- 原田 佳明氏
小松病院副院長

- 四方 伸明氏
関西医大病理学助教授
三六協定違反が白日のもとにさらされるのは間近
川ア 勤務医部会で、4、5年前に二交代についてアンケートを取りました。そうしたら、勤務医自身からものすごく評判が悪かったです。「そんなことはできっこない」「あなたたちは何を言っているのか」という感じでした。
松本 私の病院では、今は当直明けの次の日は帰ってもらっています。この5年くらいかけて少しずつやってきて、かなり実行できるようになっています。ただ、現実には非常に難しくて、今の勤務からいくと、夜勤明けで帰った分は残業から引かれるのではなく、所定の労働時間に入っているのです。プラス残業が増えているので、実際には帰っていても計算上は労働時間が増えるようになるのです。
川ア 休息は取れていても、三六協定に跳ね返るのですね。
松本 計算上は減らないのです。根本的に減らそうと思うと、交代制勤務にするしかありません。実際に働いている時間は、私たちが研修医で働いていたときよりは減っています。しかし、残業時間としてはかなり出ていると思います。今度、ICUを診る医師のところは、できるだけ病棟の主治医を担っていない医師、麻酔科医やERの日勤だけをしている医師で、交代制で回そうと議論をしていますが、そこの部分も労働協約上はまだ非常に曖昧なままで、そこだけ特別に三交代という形でうまくやれるかどうか課題があります。
先ほど3つのジレンマを言いましたが、時代の流れとしては勤務医の労働時間が、いずれは労働時間や三六協定違反の問題について白日の下にさらされるのは時間の問題だと思っています。松丸先生はそれをやらないといけないと言いますが、それに見合った形で国民の中に、あと2つの分野のことも含めてどう理解を得ていくのか。それは勤務医だけでは無理で、勤務医はむしろこの問題に関しては病院経営者と違う立場です。だから、病院経営に携わっている立場も含めて、結果的にはそれがきちっと成り立たないと成功しないだろうと思います。その運動をどう作っていくのか。結局、そのことは医療費を増やしていくことも含めて、国民の側が今の医療の状況を理解できるように、情報を提供していく運動にかかってくると思います。まだ、そんな構えは日医にも病院団体にも、どこにもできてないですが。
松丸弁護士 社会そのものが今の医師の勤務条件を知りません。労働基準法が全然ないところで働いていることをもっと知らせるためには、実態を知らせて、労働基準法違反であることもはっきりさせて、だからこそ「医療にもっと予算をつけろ」とショック療法的にでもやらないと、この問題にはなかなか火が付かないし、言うだけで前に進まないのではないかという気がしています。
原田 イギリスやドイツは、労働組合があったけど20年かかりました。イギリスは、医師がカナダやアメリカ、オーストラリアに逃げていき、バングラデシュやインドの医師が代わりに入ってきました。二進も三進もいかなくなるまでは、イギリスですら20年かかりました。日本には労働組合がありません。三六協定で一番問題だと思うのは、労働組合に医師が入っている病院もありますが、大抵の場合は組合に入れてくれませんし、保育所も使わせてくれません。労働組合自身が仲間と認めないという傾向がありますよね。
川ア その点では、この間の病院の院内保育所アンケートや厚生年金病院などの動きもあり、院内保育所に入れる動きも一部出てきていますので次第に広がると思います。
関西医大でおこった研修医事件がもたらしたもの
四方 10年前に関西医大の研修医の森君が死亡するといった事件がおこりました。卒業して1年目にあのような事がおこりました。裁判では研修医の非常に過重な労働の状況下で、はたして彼らが法的に労働者なのかどうかが争われましたが、最高裁は日本の司法として、研修医の立場は労働者だと確定した結果を見ました。
川ア 司法の判断がないと、学内の意識が変えられないと思います。それでも学内の意識は変わっていませんか。
松丸弁護士 今でも研修医の過労死はいくつもあります。
四方 彼らの労働条件に比べて今はずっとよくなっています。9時から5時のパターンで、5時になって帰りますと言われたら、駄目だと言えなくなっています。これが後期研修に入ると、自分のところの医局員として対応していくと思います。
原田 私は医師の法的な位置付けがいつもよく分かりません。開業医は自由業と考えていいと思います。自分が研修医になったときに、医師に労働基準法は適用されないのかと聞いたら、医師は自由業だと言われました。でも、勤務医は違うと思いました。また、他の病院では医師は管理者だと言われました。管理者と言われても、朝9時からちゃんと診療しないといけないし、当直もちゃんとしないといけません。医師という法的な位置付けは何かと思っています。
松丸弁護士 勤務医はもちろん労働者です。雇う方が取り決めた時間帯で働くのが仕事ですから、間違いなく労働者です。今言われた管理者というのは、正確に言えば管理監督者です。例えば、マクドナルドの店長は偽装管理職と書いていますが、正確に言うと労働基準法で労働時間の規制に入らない労働者のことを管理監督者と言って、その人については労働基準法の労働時間の規制、三六協定の範囲内で働かせないといけないとか、残業手当を払わなくてはいけないとか、そういうことが全部外れます。
原田 森先生の件があって初めて勤務医は労働者だと確定されたのですね。
松本 森君の裁判で私は意見書を書いて、関西医大の先生たちとは随分意見書でやりあいました。森君の裁判は、医師というより研修医も労働者だということがはっきり認められたものです。あそこで闘われた1つの問題は、研修医の身分が何なのかで、医師でもない、学生でもないというところが闘われました。
原田 それについて今思っているのは、後期研修医や大学院生、無給医のことです。
川ア みんな大学院生ですか。
原田 後期研修医は医局員です。
鶴田 医局員もいるし、いろいろです。専修医という名前で、面白いのは1ヵ月くらい全然お金が払われないケースが出たりするのです。要するに、専修医としての定員があるから、そのために給料を半分ずつにしてみたり、あるいは1ヵ月なかったりします。
四方 それは各医局で違います。普通の状況にある人間もいます。専修医枠があふれて、回していかないといけないところもあります。
鶴田 規定の賃金そのものが払えていない状況がまだまだあるわけです。
原田 前期研修がそれで決着したとして、なぜ後期研修は前期研修並みの給与ではないのでしょうか。保健所が医師の定数を確認するときに、大学院生や無給医の医師免許を持っていきますが、なぜ給料を払っていない人の免許を持っていくのかと思ったことがありました。
鶴田 私立の大学等では後期研修医はアルバイトをするのが当然として、アルバイト代と給料を足して、そこそこの給料になると大学側は計算しますね。
原田 東北大学や北海道大学が名義貸しと言われましたが、今の大学院生や後期研修医は大学病院と管轄する厚生労働省や文部省に対する名義貸しそのものだと思います。
松本 研修医の問題は、先ほど森君の問題が出て、最高裁までいったことがひとつのきっかけになって大きく改善されました。そのときに、後期研修医や大学院生の取扱いが法的に不明瞭なまま残ることが大体分かっていました。
川ア 今のスーパーローテートの人たちは、大体良くなっているのではないですか。
松本 給与面は明らかに良くなっています。4万・5万という水準から20万円近い水準まで良くなっています。それと労働者だということがきちっと認められたことで、労働者として管理監督責任があるということもはっきりしています。そういう面では随分進んでいると思います。ただ、労働時間の中身については、病院によってかなり差があると思います。ハードなところは、まだかなりハードです。
医師の業務を軽減するアドバルーンは上ったが予算は少ない
四方 それに関連してこんなものがきています。厚生労働省の医政局長発12月28日付で、「医師と医療関係職と事務職等の間で役割分担の推進について、医師の労働軽減を図るために」という標題です。医師がどうしてもしなければならない仕事はともかく、それ以外の静注、記録、ベッドメーキング、検査など医師以外の者ができることは、できるだけ医師以外の者がするようにして、医師の業務軽減を図れという通達です。
原田 今度予算を付けると言っていますが、どの程度付けるのかは疑問です。日本とアメリカの1床当たりのスタッフの数は10倍違います。だから、三六協定と一緒で、役所は通達したけど、守らないのは病院の責任だというやり方だと思います。
松本 いずれにしても、医師の業務を軽減するアドバルーンは上がっていますが、額は微々たるものです。そういう流れもあって、その通達が出たと思います。
原田 実際に電子カルテになると、今まで医事課の職員がやっていた入力作業も医師がします。また、今まで窓口で予約を取っていたのを私たちが予約を取っています。発生源入力と言われて、どんどん医師の方に仕事を増やしています。通達とは裏腹に、IT化の名の下にどんどん仕事が増えて、労働強化されています。
川ア 電子カルテの問題もそうですが、医療費削減のもと国の施策は私たちとは反対の方向を長年向いてきました。病院は4月改定でますます厳しさを増します。今こそ医師自らが自身の働き方をみつめなおし、世論に訴えていく時期だと思います。
本日は長時間ありがとうございました。