一継承診療所の辿る道とは

米田内科胃腸科(北区)
米田  円

 私の場合は、新規開業ではなく、継承である。新規開業に要する多大な資金の必要性は乏しく、当初から経営に関してはさほど切羽詰まったものは無かったが、それでもハードの全てをそのまま存続させるには無理があったために、レセコン導入、内外装工事、検査機器設置などの設備投資はそれなりに必要であった。今後医療界でもIT化、クリーン化が進むにつれ、負担は増加の一途を辿るだろう。

現在、徐々にではあるが、自分が理想とする診療態勢に近づいていると思う反面、正直な話、土地面積、診療所の今の枠組みが固定されている以上、内部でコソコソと改修しても限界を感じる。新規開業であれば、全てを自分の理想とした態勢でスタートできるという究極のメリットがあることが羨ましい。それなら改築や移転を考えればよいと指摘されそうだが、そう簡単ではない。

当院は居宅付診療所であるが、亡父の意向によって造り上げられた鉄筋コンクリート仕上げの強固な建物である故、壁に一つ穴を開けることだけでもかなりの負担であるのに、解体するとなると、それだけで莫大な費用がかかる。加えて当院の外来患者数は慢性に少ない、いわゆる「零細診療所」であり、将来性や地域性さらには今後の医療情勢を考慮しても、躊躇せざるを得ない。従って、大改築に費用を割くよりは、今ある枠組みの中で、内外装を充実させることが妥当なやり方かとも思う。

先に地域性と述べたが、当院の周囲には独居老人が多く、通院患者の約4割は後期(長寿)高齢者である。また当院は在宅支援診療所でもあるので、今後は訪問診療の方に比重が高まろう。

父がここ大阪市北区の下町に開業し、約半世紀経た後に継承した二代目の私が果たすべき責務の中で、これまで両親が苦労して築き上げ、維持してきた診療所で診察し、開業当初から代が交代しても、信者の如く通い続けて来られる馴染みの患者さんを極力最期まで診つづけることが最大のものと自覚している。ただ、やるからには自分の理想も含めたい。そうしないと長続きしない。これらの感慨に浸りながら、当診療所の歩むべき道について悩み、模索している日々である。

[勤務医ニュースNo. 90:2009年9月5日号に掲載]