クレーマーに遭遇しないことが慰めに

安芸医院(消化器外科・都島区)
安芸 敏彦

 開業してこの9月で丸4年になりますが、勤務医とは全く違う仕事・生活です。

診療報酬改定も2回経験し、毎回レセコンのバージョンアップに労力をかけた末に切り下げられた診療報酬に甘んじざるを得ない状況です。

保険診療というのは勤務医の時はあまり意識しませんでしたが、全くの統制経済のようなもので薬品・技術を公定の価格で売る(提供する)ものです。

しかも消費税込みで仕入れたものを消費税なしでの提供ですからね、利益率はよくないわけです。しかし、薄利多売のように値下げはできませんし、その時その時の社会の経済状況に大いに影響される職種であるにもかかわらず、通常の経済原理が働かないように規制されているという変わった現場です。開業数年で撤退する方もいるとのことですが、やむをえない状況と思います。

「勤務医より楽でいい収入」などという甘い幻想で開業すると、とんでもない借金をかかえて勤務医にUターンということも現実味を帯びて感じる今日このごろです。

できるだけ経費を節約し、無駄をなくすことでこの厳しい時期を乗り切るしかないと半ばあきらめているところです。

しかし、勤務医時代に比べていわゆるクレーマーといわれる患者・家族に遭遇していないのがせめてもの慰めでしょうか、ひとりひとりの患者と話せる時間が増えたことと、診療所の近隣にお住まいの患者さんが多いせいもあり、顔見知りの方が多くなってくることも原因かもしれません。これが地域医療というものかもしれませんが。

経済的、経営的には非常に厳しい状況が続いているのですが、これは医療だけではないし、我々医師一人を養成するために多くの税金が費やされていることを考えると、営利に走るのは、どこぞの役所のように税金を使い込んでいるのと変わらないようにも思います。

消化器外科からの開業というギャップの大きな仕事内容にとまどった数年ですが、これからは徐々に地域に根をおろした医療ができればと思うこのごろです。

[勤務医ニュースNo. 85:2008年9月15日号に掲載]