コンビニエンスな診療所をめざして

いとう消化器クリニック
伊藤 裕之

 最近、「病院のコンビニ化」と言われる。救急と言いがたい軽症患者が、待ち時間の無い夜間に受診することを揶揄して表すものである。勤務医のときは、当直時間帯にそういう患者が来ると腹立たしかったが、開業すると話しは別で来てくれる人はどんな患者であれ、ありがたいものである。いまでは、どうすればコンビニのように人の出入りが多くなるのか考えたりしている。人間は、立場が変われば心も変わるのである。初めての病院を受診することは、どんな選択のうえに成り立つのだろう。私どもの診療所を訪れる人に聞いてみると近所だから、通勤の通り道だから、看板を見たからの3つの理由が多い。「こんなところに病院があるんだ(一般の人は、診療所のこともこう言う)」という実際の体験が重要なのだろう。だから、クリニックの設計に必要なことは、ひと目見て病院とわかる外観を持ち、ひと目見て受診したい科目とわかる看板があることだ。あとは、中の見えない扉ではなくガラスのドアで受付や待合いの混み具合が窺がえれば申し分ないと思う。ちなみに私どもの診療所名には、「消化器」が入っているので今でも「風邪を診てもらえますか」と聞かれる。その度に名前の付け方を間違ったのかと空を仰ぐのである。いろいろな意味で間口を広くしておくのが良い。

次にリピーターになってくれる患者を増やすことである。これには、患者の要望に応え続けることが必要と思う。患者は本当に様々な要望をする。先日初めて来院されたAさんは、輸血を希望された。いきなりの問いかけに返答に困ったが、聞けば慢性の血液病をもっておられ顔面真っ白である。Hb 5台でたしかに輸血が必要であった。輸血なんて当院始まって以来3年、したこともしようと思ったこともない。当然、近くの病院でお願いすることにした。が、患者は仕事を休めないので連休中に入院して輸血してほしいと言う。そんな都合を聞いてくれる病院などあるはずがない。ウーン、当院で輸血するしか仕方がない。病院では伝票1枚切れば事は進んでいくが、日赤の電話番号はわからない、輸血用の点滴セットはない、クロスマッチをどうするか…。時間はかかったが、一つひとつ問題を解決して同意書も書いてもらい無事に輸血することが出来た。今も鉄剤の処方を受け取りに継続通院されている。リスクはあるが、輸血という要望に応えたことでリピーターを獲得した瞬間だったと思う。これからも一つひとつのニーズに応えることで気軽に使ってもらえるコンビニエンスな診療所を目指したいと思う。

[勤務医ニュースNo. 79:2007年9月15日号に掲載]