パーキンソン病における最近の話題と治療の実際

大阪府済生会中津病院神経内科 部長
高橋牧郎

 我が国のパーキンソン病(PD) の有病率は増加傾向にあり、人口10万人あたり150人前後、65歳以上では200人以上と言われ、糖尿病400人、虚血性心疾患100人、悪性新生物80人などと比較してもPDはメジャーな病気である。発症は50~60代が多く、40歳以下は若年性PDとして区別される。

PDは1817年James Parkinsonにより報告され、四大臨床症状(安静時振戦;Tremor、筋固縮;Rigidity、寡動;Akinesia、姿勢反射障害;Postural reflex disturbance、TRAPとすれば覚えやすい)が特徴である。振戦は3~5Hzの律動性で、姿勢時には初め消失、その後再出現する(reemergent tremor)。筋固縮は歯車様抵抗を示し(cogwheeled rigidity)、歩行は小刻みで突進現象や立ち直り反射の障害が見られる。一般に若年例ではtremor typeが多く、高齢では筋固縮、寡動(akinetic rigid type)が多い。他のパーキンソン症候群(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核萎縮症、多系統萎縮症、脳血管障害性、薬剤性パーキンソニズムなど)との鑑別が重要である。臨床所見とあわせてMRI画像検査、脳血流シンチ、PET、MIBG心筋シンチグラフィーなどで鑑別できることも多く、神経内科専門医へのコンサルトが重要である。

病理学的にPDは中脳黒質ドパミン神経細胞内にα-synucleinを主成分とする封入体が形成され、ドパミン神経細胞脱落に伴いその投射先である線条体でのドパミン濃度が低下する。α-synucleinは神経可塑性に関係し、常染色体優性家族性PDにて遺伝子異常が報告され、蛋白の細胞内蓄積、凝集、分解機構の破綻、構造変化による神経毒性によりドパミン神経脱落が生じる。

L-dopaが1967年から使用可能となり、PDの治療は飛躍的に進歩した。しかし、L-dopa単剤投与は発症3~5年程度運動症状を改善するが(honeymoon period)、長期治療において薬効持続しないwearing off、薬効不安定なon-off現象、不随意運動症dyskinesiaの出現が問題視されてきた。また、基礎実験では、ドパミン酸化物(quinone)が細胞毒性をもち、過度のL-dopaは細胞死を助長する可能性も示唆されている。一方、臨床的には早期L-dopa導入の長期的なPD患者の運動症状、ADL改善への有効性が示され、特に高齢者では早期導入が神経学会ガイドライン(2011)でも推奨されている。

一般に65歳以下の若年例にはL-dopaでなく、ドパミンアゴニストから治療を始めることが推奨されている。これは長期L-dopa内服に伴う運動合併症を予防すること、若年例ではL-dopa反応性が高く、症状の変動を伴い易いので、off時間短縮を目的としている。さらに、monoamine oxidase B(MAO-B) 阻害薬のselegillineは中枢性ドパミン分解を抑制し、薬効延長が期待できること、抗酸化作用により酸化ストレス誘発性ドパミン神経細胞死抑制が期待でき、欧米ではMAO-B阻害薬の早期使用が推奨されている。ドパミンの末梢性分解抑制剤COMT阻害薬はL-dopaの半減期を延長させ、wearing offが強い場合に用いられる。また本邦発のzonisamideがPDの振戦を主とする諸症状の改善効果があり承認された。振戦には元来抗コリン薬が用いられてきたが、高齢者で認知症を合併する場合は使いにくい。

PDの外科的治療である深部脳刺激術(DBS)により視床下核を電気刺激すると運動症状が改善することが知られている。L-dopaが有効であり、病的賭博、幻覚、妄想など精神症状のない患者で、薬物治療が困難な場合に考慮する。ES細胞、iPS細胞由来のドパミン細胞移植も動物実験レベルでは可能となりつつあるが、倫理面や安全性で課題も多い。

[勤務医ニュースNo. 100:2011年4月25日号に掲載]