小児循環器疾患と学校保健〈第一回〉

さのこどもクリニック(福島区)
院長 佐野 哲也

就学児の循環器疾患の大きな変化

 小児循環器学や小児心臓外科学の進歩により循環器疾患をもつ子どもの診断・治療は著しい向上を遂げている。現在では重症先天性心疾患の多くが治療され、健常児と同じように就学している。後天性心疾患ではリウマチ性心疾患はほとんど見なくなり、川崎病後の心臓後遺症が後天性心疾患の中心となっている。高周波アブレーションという高度なカテーテル治療で完治する小児の不整脈も多い。その結果以前は運動を禁止されていた循環器疾患の就学児童の多くが運動に参加するようになっている。臓器移植法の改正により小児心臓移植が増え、近い将来心臓移植後の就学児童も珍しくなくなるであろう。このように学校現場で循環器疾患を持つ就学児は増加とともに疾患や治療の内容は広がっており、学校現場での心疾患児の管理指導は大きく変わってきている。本稿では学校現場でよく見る小児循環器疾患を2回に分けて解説する。

学校現場でよくみる循環器疾患

Ⅰ.先天性心疾患

 非チアノーゼ性心疾患には、心室中隔欠損、心房中隔欠損、動脈管開存、心内膜床欠損などがあり、重症例はいずれも乳幼児期に治療される。従って学校現場では術後か手術を要しない軽症例に限られる。近年では心臓外科治療に加えて、心房中隔欠損や動脈管開存に対してカテーテル治療法が普及している。
 チアノーゼ性心疾患には、ファロー四徴症、大血管転位、三尖弁閉鎖、単心室、左心低形成症候群などの疾患が含まれ、いずれも複数の心臓解剖学的異常を有する。ファロー四徴症は乳幼児期早期に修復手術が行われ、手術成績は安定している。大血管転位では、新生児期に大血管を正常に入れ換えるスイッチ手術が安全にできるようになった。さらに複雑なチアノーゼ性心疾患においてもフォンタン手術と呼ばれる機能的根治術の成績が急速に良くなり、多くの乳幼児が就学できるようになっている。
 心臓修復手術には、解剖学的構築異常をすべて正常に戻す解剖学的根治術(二心室修復術)と血液循環を正常化する機能的根治術がある。心室中隔欠損に対する欠損孔閉鎖術やファロー四徴の修復手術は二心室修復術である。一方、全身の静脈血を右心室を通らずに直接肺へ還流するように心血管を作り直すフォンタン手術(右心バイパス手術)は機能的根治術の代表である。
 現在ではほとんどの先天性心疾患がカテーテル治療や外科手術で修復可能になっている。従って学校現場ではあらゆる先天性心疾患を有する学童をみる可能性がある。しかし、同じ診断でも術前の重症度や手術後の合併症により病態は多様である。従って学校現場では心疾患の診断名やその内容より心臓手術後の循環動態の特徴や問題点を把握するほうが、学童の学校生活管理にとって重要である。
 心臓手術後の合併症には心不全、肺高血圧症、流出路狭窄、弁閉鎖不全、術後不整脈などがある。術後心不全や肺高血圧症の残存は児の活動性や安静度に直接影響を与える。人工弁や人工血管を使用すると術後時間が経つにつれ狭窄をおこすことがある。一方フォンタン手術では肺へ血液を送り出すポンプ(右心室)がないために運動時に血液を送り出す予備力が健常児より低下している。日常生活や体育以外の学校生活は問題ない場合が多いが、小学校高学年になると運動能力の低下が明らかになる。さらに循環動態悪化例では胸水・腹水の貯留、蛋白漏出性胃腸症、側副血行が術後合併症として起こることがある。

(次回は不整脈、川崎病、心筋症について解説します。)